テラーノベル
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朝は、いつも通りだった。
目覚ましの音で目を覚まして、カーテンを開ける。
差し込んでくる光が少し眩しくて、思わず目を細めた。
「今日もいい天気だなぁ」
なんて、誰に言うでもなく呟く。
コーヒーを淹れて、トーストを焼いて、適当にニュースを流す。
同じ毎日。変わらない日常。
でも、それが嫌いじゃなかった。
ネクタイを締めながら鏡を見る。
少し残っていた寝癖を軽く直してから、鞄を持って靴を履く。
玄関を出ると、春の空気がふわっと頬に触れた。
淡い青空、柔らかい日差し、街路樹の緑。
やけに綺麗で。
――ああ、いいな
なんてふと思った。
このときはまだ、これから自分がどうなるかなんて考えもしなかったけど。
会社に着けば、いつも通りの仕事。
パソコンの画面に向かって、資料をまとめて、
上司に呼ばれて、軽く注意されて、
同僚と昼ごはんを食べて、他愛もない話をして笑う。
「佐久間、今日残業いける?」
「まぁ⋯ちょっとだけなら」
「助かるわ〜」
そんなやり取りも、全部いつも通り。
退屈って言えば退屈かもしれないけど、
でも確かに、ここに“自分の居場所”があった。
仕事が終わる頃には、外はすっかり暗くなっていた。
「はぁ⋯⋯疲れた」
肩を回しながら会社を出る。
夜の街はネオンで溢れていて、昼とは全然違う顔を見せる。
信号待ちをしながら、ぼんやり空を見上げた。
街の明かりにかき消されて、星なんてほとんど見えない。
でも、どこか遠くにひとつだけ光っている気がして。
空を見上げてぼーっとしているうちに、信号が青に変わる。
人の流れに乗って、横断歩道を渡る。
スマホを取り出して、軽く時間を確認して。
そのときだった。
――キキィィィィッ!!
耳をつんざくようなブレーキ音。
「え⋯?」
顔を上げた瞬間、
強い光が、視界いっぱいに広がった。
ヘッドライト。
近すぎる。
「あ―――」
避ける暇なんて、なかった。
衝撃。
体が宙に浮く感覚。
何かにぶつかって、
世界がぐるっと回って、
地面に叩きつけられる。
音が遠くなる。
誰かが叫んでいる。
何人もの足音。
名前を呼ばれている気がする。
でも、全部、どこか遠くて。
痛いはずなのに、痛みすらぼやけていく。
視界が、滲む。
ぼやけて、にじんで、
さっきまで見えていた光が、どんどん崩れていく。
「⋯⋯なん、で⋯⋯」
何も、見えない。
暗い。
ただ、真っ暗で。
さっきまで確かにあった“光”が、
一瞬で、全部消えてしまったみたいで。
怖い。
息がうまくできない。
「……やだ……」
声が、震える。
「見えない……っ」
必死に目を開けてるはずなのに、
何も映らない。
何も。
何も、ない。
そのまま、意識は沈んでいった。
音も、感覚も、全部遠くなっていく中で
最後に思ったのは、
あの朝の光だった。
カーテン越しに差し込んできた、あの優しい光。
―――なんで⋯⋯
そう思った瞬間
完全に、意識が途切れた。
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