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番外編『第九・五話 君が帰ったあと』
──初めての寄り道。
三人の男子生徒と出会ったあと。
「今日はありがとう」
そう言って笑った千夏は、夕暮れの駅前へ一人歩いていった。
誰も追いかけられなかった。
ただ、その背中を見送ることしかできなかった。
沈黙。
さっきまで賑やかだった駅前が、妙に静かに感じる。
「……」
最初に口を開いたのは結衣だった。
「……何やってるの」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
サッカー男子、隼斗は困ったように頭をかく。
「え?」
「え、じゃないよ!」
結衣の声が震えた。
「やっと……やっと友達になれたのに……!」
その瞬間、ぽろりと涙が落ちた。
結衣の元同級生、隆太が慌てて結衣に手を伸ばしかける。
「神崎……」
「せっかく笑ってくれるようになったのに……」
結衣は声を押し殺して泣いた。
「また一人にしちゃったじゃん……」
その姿を見て、男子三人は言葉を失う。
「お前さぁ」
黙って見ていた、もう一人の男子生徒。明るい髪色で長身の瑛人が隼斗に苦笑しながら言う。
「ホント空気読めよ」
「いや……」
「昔話だからって何でも言っていいわけじゃねぇだろ?」
「そんなつもりじゃ……」
「そんなつもりじゃねぇから余計悪いんだよ」
隼斗は反論できなかった。
「さて、どうすっかね」
隆太がため息をついた。
──
しばらく誰も話さなかった。
駅前を吹き抜ける風だけが、重たい空気を揺らしていく。
やがて隼斗がぽつりと呟いた。
「俺さ」
全員が顔を上げる。
「中一の頃、サッカー辞めようと思ってた」
「……は?」
「毎日遊んでばっかだったし」
隼斗は照れ隠しのように苦笑いする。
「俺、才能だけで何とかなるって、本気で思ってた」
誰も茶化さない。
「でもさ」
少し遠くを見る。
「ちょっとサボったら、あっという間に置いてかれた」
歩道のガードレールに腰掛ける。
「勉強もサッカーもどうでも良くなった」
手にしていたボロボロのサッカーボールを見る。
「だけど、あいつだけは毎日残って勉強してた」
結衣は意外な顔をする。
そんな千夏は知らなかった。
「俺さ、努力って面倒くさいと思ってた」
少し笑う。
「でも、亜土見てたらさ……俺、何やってんだろって」
静かな声だった。
「だから毎日ボール蹴った」
隼斗は立ち上がり、膝でリフティングを始めた。
「朝も」
「放課後も」
「休みの日も……っと」
正確なリズムでボールが上がる。
最後は両手でキャッチした。
「みんなには『サッカー馬鹿』とか『必死すぎダサい』って言われたけどさ、別にいいやって思えた」
照れくさそうに笑う。
「気付いたら地区予選、結構いいとこまで行けた」
誰も口を挟まない。
「だから今日、亜土が高校で成績いいって聞いたら」
長年、彼を支えた相棒に語りかけるように言う。
「やっぱ努力って報われるんだって……嬉しかったんだ」
その声は少しかすれていた。
「だから、褒めたつもりだったんだけどさ……」
俯く。
「なのに、泣かせた」
ボールに額を当てる。
隼斗の表情は見えなかった。
「最低だな、俺」
結衣は涙を拭いた。
ゆっくり隼斗の前まで歩いていく。
「だったら」
全員が顔を上げる。
「今の話、ちゃんと伝えよう」
「……」
「終業式までに」
結衣は真っ直ぐ言った。
「聞いてくれるまで、毎日でも声かける」
隼斗も頷く。
「うん」
結衣はLINEでさっき別れた二人の友達にもメッセージを送った。
『マジ?協力する!』
短髪の女子、アカネからすぐ返信が来た。
『結衣の友達はウチの友達っしょ!』
日焼け女子、珠子からも返信が来た。
隆太と瑛人が笑って言う。
「もしかして……俺たちも強制集合か?」
「文句言うなっ」
結衣が睨む。
少しだけ笑いが戻る。
隼斗も、やっと小さく笑った。
「今度、ちゃんと謝る」
「よろしい」
結衣はサッカーボールに手を置いた。
「次はちゃんと伝わるよ」
夕暮れの空は、少しずつ茜色に染まっていた。
──その頃。
誰も知らない場所で。
千夏は一人、自分だけが笑われていると思い込みながら歩いていた。
本当は違う。
誰一人、笑ってなんかいなかった。
みんな、
もう一度、あの笑顔を見たいと思っていただけだった。
──第十話へ続く
コメント
3件
この話を読んだ後に10話を読むと、ちょっと見方が変わって面白かったです😊
第九話と第十話の間にあったエピソードです。 しばらくしましたら並び替えします。 補足:モブの女子二人組と男子三人組の名前を紹介しております。 ・短髪女子:アカネ スポーティおしゃれ女子 ・日焼け女子:珠子 ゆるふわギャル風女子 ・結衣同級生男子:隆太 陽気系制服着崩し男子 ・千夏同級生男子:隼斗 スポーツ系サッカー男子 ・もう一人いた男子:瑛人 ちょい悪系茶髪・長身男子
読了しました。第九・五話、すごく切なくて、でも温かいエピソードでしたね。 結衣が「また一人にしちゃった」って泣くところ、胸がぎゅっとなりました。千夏の笑顔を見たいと思ってる人たちがちゃんといるんだって分かってるから、なおさら切ない……。隼斗が自分の弱さや千夏へのリスペクトを語るシーンも、嘘がなくて良かったです。 最後の千夏の孤独な横顔、みんなと心がすれ違ってるのが苦しいけど、このあとどう繋がっていくのかすごく気になります。続き、楽しみにしていますね🌷
鷹槻れん@コノカレコミカライズ

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