私には好きな人がいる。同じクラスで隣の席の男の子だ。名前は「鈴木君」と言う。
彼は背が低くて眼鏡をかけていて髪が長くて地味だけど、顔立ちはとても整っていて優しそうな顔をしている。それに誰に対しても優しいのだ。私が風邪を引いた時なんか、「大丈夫?」と言ってお見舞いに来てくれたこともあった。そんな彼が私は好きだった。
彼とは同じ部活に所属しているけど、あまり接点はない。だから話したことはほとんどない。
そんなある日のこと。突然彼に告白された。放課後の教室だった。彼は言った。好きだよ、付き合ってくれないか?……正直驚いたし嬉しかった。だけど……やっぱり怖かった。だってあたしには好きな人がいるんだもん。だからごめんなさい、と言って断った。そしたら彼は少し残念そうな顔をして、「わかった」と言った。その時、ほんとはちょっとほっとしていたんだけど、そんなこと言えない。
それから数日経ってある日のことだった。彼は急にあたしの前に姿を現してこう言ったのだ。好きになったから、もう一度付き合って欲しい、と。もう別れてから半年くらい経っていたと思う。それでも彼はまだあたしのことを好きでいてくれたらしい。
正直嬉しかったけど、でもやっぱり別れたことには変わりないわけだし、また一緒にいたら今度は今度こそ本当にダメになってしまうんじゃないかと思って断った。そしたら彼は泣いてしまった。ごめんなさいと何度も謝った。泣きながら、「僕じゃあ君の心の隙間を埋められないのか?」と聞いてきた。あたしは何も答えられなかった。彼は続けた。「僕は君を愛してるんだ!ずっと前から愛してる!」って言ってくれた。
嬉しい気持ちもあったけれど、それ以上に罪悪感の方が大きかった。だって今まで散々酷いことをしてきたんだもの。それにこんなにも想ってくれていたなんて知らなかった。なのに気づかずに傷つけてしまった。だから泣かないでほしいと思った。でも彼は泣くことをやめてくれなくて困ってしまった。
どうしていいかわからなくなってその場から逃げ出した。もう会わない方がいいと思った。
家に帰るなりベッドに飛び込んで枕を抱き締めて声を押し殺してわんわん泣いた。涙が止まらなかった。
しばらく経って落ち着いた頃にスマホを見たら着信履歴があってびっくりしてしまった。電話に出てみると彼はまだそこにいて、あたしのことを待っていたみたいだった。
あたしが出てくれたことで安心してくれたらしくてホッとしていた。そんな彼を見ているととてもじゃないけど無視なんかできなかった。
とりあえず明日話したいことがあるんだ。
そんなふうに言われれば、期待しないわけがないでしょう? いやあ……本当に申し訳ないんだけどさ、君との約束を忘れていたんだよ。ごめんね? もう二度と忘れたりしないように気をつけるよ! そんなことを言いながら頭を下げられても、許せるはずもないでしょう? 別に怒ってなんかいないわよ。
ただ、呆れてるだけ。
嘘じゃないってば! 本当だって! ちゃんと説明するから聞いてくれよ! わかったから、早く説明してちょうだい。
うん、じゃあ話すけど――。
あれは高校二年生の夏のことだよ。
当時おれは高校生になって初めてできた彼女に夢中だったんだ。だから夏休みに入る前に告白しようと思ったんだけどさ……ちょっとタイミングが合わなくて結局できなかったんだよ。
で、休みに入ってからデートしたり映画見に行ったりしたわけよ。
それでさぁ、もうすぐ彼女とお別れしなくちゃいけないと思うと辛くてね。だってまだ付き合って一ヶ月ぐらいしか経ってないじゃん? もっと一緒にいたいなって思うじゃない。それにおれって結構しつこいタイプだし。
ああ、あと彼女には内緒にしてるんだけど、実はおれの友達と彼女がこっそり会っていたみたいなんだよね。なんか二人で旅行の計画とか立てていたらしいんだ。
これって浮気だと思う? 普通に考えればそうだろって感じだけど、彼女はそんな子じゃないっていう気持ちもあってね。もし本当にそういう気がないんだったら……なんていうかさぁ。
いや別に彼女のことを疑うわけじゃなくてさ、ほらあれだよ。いわゆる一つの世間一般の常識的な話であってさ、彼女が俺のことを好きだと思ってくれてるんだったら俺は嬉しいし幸せだし、だからといってそれを理由に彼女を信じないようなことはしないけど、でもやっぱりどうしても気になっちゃうんだってばよ! それに最近ちょっとおかしいんだよ。
なんか急にそわそわし始めてさ、顔を合わせるたびにちらっとこっちを見てくるんだけど、目が合うと慌てて目を逸らすんだよ。
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