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「あなた」は夜空を見上げるのが好きだった。特に、街の明かりから離れた丘の上で、星々の輝きを眺める時間が。それは、あなたが唯一、自分自身と向き合える静寂の瞬間だった。
ある晩、いつものように丘の上で空を見上げていると、あなたの少し離れた場所に、もう一人、空を見上げている「彼」がいることに気がついた。彼はいつも同じ時間にそこに現れ、あなたと同じように、黙って星を見ているだけだった。
二人の間に言葉はなかった。しかし、その静かな空間を共有するうちに、あなたは彼に対して、何かしらの親近感を抱くようになった。彼のシルエット、時折星を指さす仕草、そして、彼が発する静かなため息。そのすべてが、あなたの心に穏やかな波を立てた。
ある夜、突然の通り雨が降ってきた。傘を持っていなかったあなたが困っていると、彼が自分の大きな傘を差し出してくれた。
「よかったら、どうぞ」
あなたは驚きながらも、彼の傘の中に入った。一つの傘の下、二人の距離はぐっと縮まった。雨音だけが響く中、あなたは初めて、彼の顔をはっきりと見た。彼の瞳は、夜空の星のように静かに輝いていた。
「ありがとう」あなたは小さな声で言った。
彼は何も言わず、ただ優しく微笑んだ。
雨が上がり、空には美しい月がかかっていた。彼は空を指さし、言った。
「あの星、知ってる?すごく遠いところから来てるんだって」
あなたは彼が指さす方向を見た。小さな、でも確かに輝いている星。
「私たちも、遠い場所からここにいるのかもしれないね」
あなたは彼の言葉に、不思議な共感を覚えた。その瞬間、あなたの中で、彼との間にあった見えない境界線が消えたのを感じた。
「また、ここで会える?」あなたは勇気を出して尋ねた。
彼はあなたの目を見て、頷いた。
その夜、あなたは一人で家路についた。心の中には、雨上がりの月の光と、彼の優しい笑顔、そして遠い星の輝きがあった。それは、あなたが一人で夜空を見上げていた時には感じられなかった、温かい光だった。