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あれはそう、“こちら側”に関して、本格的な興味と分別を持ち始めた中学生の頃だった。
以前、彼女がモミジに対し行った荒療治には、真実どういう意味があったのか。
答えは簡単で、彼を巨体たらしめた人々の念を取り払ってあげたと。
この場合の念とは、“あの池には巨大な何かが潜んでいるかも知れない”という、雑多な恐怖心だ。
それが蓄積した結果、本来なら愛らしいサイズの彼を、あれほどの大きさに変貌させてしまったと。
「シバ……く………?」
「あ、手心加えちゃダメですよ? 本気で来てください」
肝心の呪いの解き方、念の除き方については、正直よく解らない。
いや、原理については何となく分かったのだけど、彼女の提唱する理論が余りにもあやふや過ぎて、よく分からなかったのだ。
『まず一発シバいてもらうワケですよ』
『え? なんで?』
『え? 先に手を出してもらえれば、こっちも思いっきりやれるので』
呪いや念は本来、対象者のみ感染する特注ウイルスのようなもので、外部に伝染する心配がない代わりに、第三者が手を出すことも出来ないという。
そこで───、ここから先がよく分からないのだけど、相手に一撃もらうことによって、ウイルス遺伝子を解読。
体内で抗体を精製し、これを相手の身体にぶち込むと。
『それ、シバかれる意味あるの?』
『え。 だって、そのほうが後腐れなくていいじゃないですか』
恐らく、それは古来から存在する技法を、彼女なりにアレンジしたものではないか。
オリジナルはたぶん、当事者を“まつろわぬもの”に仕立て上げるところから始まるんじゃないかと思う。
依頼を受けた側が、当事者を煽るなり嘲るなりして、何らかの無礼を働くよう仕向ける。
これに乗せられた当事者は、憐れな依頼人から神罰の対象者へと様変わりする。
こうなってしまえば、もう呪いもへったくれも無い。
執行者と被執行者の出来上がりだ。
あとは神の裁量によって、呪いを解くなり何なりすればいい。
「………………」
そして現在、なんとも彼女らしい不器用な計らいを提示された先方は、これを真に受けて良いものか、心の底から倦ねている様子だった。
そんな逡巡も、友人が後押しのように告げた言葉を受け、一気に霧散した。
「私これでも、すこしは人間の血が流れてるんですよ?」
ボッボッボッボッと、規則的な着火音がしたかと思うと、童女の身辺に青白い火の玉が無数に現れた。