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「……ねえ、日比谷くん」
「ん?」
「……あんた、なんで芸人なんてやってんの。もっと楽に稼げる道、いくらでもあるでしょ」
光はエナジードリンクの蓋を開け、一口飲んでから夜空を見上げた。
「……俳優とかモデルとか、綺麗な役を演じるのは俺には無理なんだわ。それより、自分の情けないところを見せて、誰かが『あ、こいつもバカだな』って笑ってくれる方が、俺自身も救われるっていうかさ」
あいつは、空になった瓶をゴミ箱に放り投げた。
「お姉さんもさ。そんな高いヒール履いて、わざわざ自分を苦しめることないんだよ。俺の隣にいる時くらい、もっとブサイクに笑えばいいじゃん」
「……バカにしないでよ」
そう言いながらも、私は自分の足元を見た。
昨日よりも、ずっと地面をしっかり踏みしめている気がした。
「……また明日。……明日も、おやすみの壁ドン、してあげてもいいよ」
「それ、お礼になってないから!」
光の笑い声に背を向けて、私は帰り道を歩き出した。
カツ、カツ、と響くヒールの音は、いつもよりずっと軽やかだった。