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キーンコーンカーンコーン
放課後を知らせるチャイムとともに階段を駆け上がる
「いつもより2分遅れ…急がないと」
先生から借りたカギを使って屋上の扉を開ける
『ガチャ』
音とともに熱気が吹き込んでくる
この空気感がたまらなく好きだ
「さて、今日も描きますか」
放課後のチャイムとともに帰ったり部活を始める皆を絵に描く、こんな生活をやり始めて3ヶ月程経った。
ボールの跳ねる音、自転車の車輪の音、演奏、話し声、こいつらを絵に取り入れられないのが凄く残念だ
「…あれ?吹奏楽外出てる…そっか、もうそろ運動会か」
こういったところで日々の移ろいを感じられてけっこう楽しい
…気がつけば夕日も傾いていて外で部活をしている人たちも片付けを始めていた
「そろそろ帰るか」
階段を降りて職員室に向かう
「すみません、柏木先生いますか?」
「はいはーい」
小走りで担任の先生が近づいてくる
「カギありがとうございました」
「いいってことよ…で、他の先生にバレてない?」
「多分大丈夫だと思います」
「オッケー!…あっそうそう、明日は水道工事とかで放課後屋上のタンク見に事務の先生と業者が来るからやめときなね」
「了解!」
「気を付けて帰りな〜」
「ありがとうございました」
明日先生来るのか…バレるのはいやだし忠告通り明日はやめとこ
次の日
今日は絵描けないし今までの絵の整理でもしておこう
「あら?いつもすごいスピードで帰るのに今日は残ってるなんて、明日抹茶ラテでも降るの?」
「ホントに降ったら良いね…今まで描いてきた絵の整理をと思ってね」
声をかけてきたのは友人…?の奏愛だった
「へぇ~ちょっと見せて」
「嫌だ」
「なんでよ」
不機嫌そうな顔をする
「人の絵見るの楽しいじゃん」
「私は見られたくないの、あんたがよくても私はよくないの」
奏愛は強引にスケッチブックを取ると「良いじゃん減るもんじゃないし」といってペラペラとめくり始める
「ちょっとま!…」
「え…なにこれ」
手を止めて絵と私の顔とを交互に見る
「めっちゃすごいじゃん!え?これ放課後の風景画だよね?すっご細か」
急いで私は取り返す、コイツにバレたら他の人にも平気で話しかねない、なんとしてでも誤魔化さなければ
「これは学校の3階で描いたの!それで大体3ヶ月くらい続けてる!これで満足?」
「…分かりやす〜」
言われてハッとした、嘘を付くときのクセがモロに出ている、聞かれてもいないのにペラペラと喋るクセが
「本当はどこで描いてるの〜?」
「言わない」
「え〜教えてよ〜なんなら契約書にサインするからさ〜」
「どこから出したんだよ…」
頭を下げて「まじでお願い!モヤモヤしたまま帰りたくないの!」と言ってくる、押しに弱いのは私の悪いところだ
「わかった…」
「やった!じゃあ」
「ただし!まじで他の人に言わないでね」
「モチのロンよ〜、で、どこで描いてたの?」
(ごめん先生)と心の中で謝りまくる
「先生からカギ借りて…屋上で描いてる」
「あ~」と納得したような表情で「だからか」と言う
「だから毎回バカ早く教室出てたのね」
「他の人に見られるわけにはいかないから」
「ふーん、他のページ見ても良い?」
「良いけど…」
「てんきゅ」
日付順に再度見始める
「夏休み中も描いてたんだ、ヒマ人?」
「うっさいわボケ」
ページをめくっていた手を止めて…何かに気付いたように前後のページを見比べはじめた
「コレなんでプールの前の通学路ちょっと解像度高いの?」
「え?本当?」
「無意識か」
さらに前のページをめくる
「ここの辺りからは…グラウンド、それもサッカーゴール付近がちょっと凝った描き方してる」
「うわ本当だ…」
「変だな…日付は9月上旬、サッカー部引退あたりか」
探偵気取りか、メガネもかけていないのに人差し指で鼻を撫でている
「…恋か」
「は?」
生まれてこのかたまともに異性と関わらずに生きてきて、あまりの気配の無さに姉に同人誌を押し付けられたこの私が?
「ないだろ」
「いやあるだろ」
「い…」
声がつまる
「恋は誰にだってあるものだよ、ってことで今日から相手探しするから」
「なんで私の恋愛の手伝い?私の恋と思うなら関わる意味ないじゃん」
「意味はある、人の恋程メシウマなものはそうそうないからね」
「性格」
誰かを好きになる、もし私が本当にそんな状態なら
初恋なんて言うには薄味すぎるのではなかろうか
fin