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久我 貴仁さんのことは、父親にも話した通り、これっきりにするつもりだった。
だけどなんだか心の中ではもやもやとして、いつまでも消化しきれないでいた。
……あんな別れ方をして、よかったのかな? その場の勢いで、つい短気を起こしちゃったけれど、本当はもう少し話をしてみてもよかったのかもしれないし……。
そんな風に思う反面──『どちらかと言えば、悪くはない』だなんて言われたことは、やっぱり胸の奥にわだかまっていた。
だってあんな言い方って、まるで当てこすられてるみたいで……。嫌ならそう言ってもらえた方が、こっちだって悶々としないで、ひと思いに忘れてしまえたのに──。
「……彩花ちゃん! 何してるの⁉」
耳元で大きな声で名前を呼ばれて、慌てて顔を上げた。
すると、そばには同じ調香師の君原菜子さんがいて、私の手を捕らえていた。
「スポイトがメスシリンダーから外れて、香料がこぼれているわ!」
忠告にハッとして手元を見やると、スポイトから滴が作業用デスクの上にポタポタと垂れ落ちていた。
「あっ……、ごめんなさい!」
とっさに謝って、こぼれた液体を拭き取った。