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お昼休みの直前。難しい顔をしてパソコンの画面をじっと見つめているイタリアの後ろから、肩に手をぽんと置いて言う。
「…進捗はどうだ、イタリア」
すると、イタリアは少し驚いたような表情になったあと、すぐに普通の顔に戻ってこちらを振り返った。うっすらと汗ばんでいて、相当頑張っているのが見える。だが、進捗は違かった。
「あっ、ドイツ、えぇと…」
「…その資料」
イタリアのデスクに置いてある資料を指さして俺は言う。
「三日前に配布したものだよな、いつもなら一昨日か昨日には終わっているはずだ」
明らかに、仕事の進みが遅い。でも、サボっている様子や、のろのろとやっている様子は無かった。なのに、何故通常よりもこんなに時間が掛かっている?
イタリアの不調意外に考えられなかった。
「…本当に、身体は大丈夫なのか?俺も鬼ではない。体調がすぐれないなら、長期休暇もとって構わない。遠慮なく言ってくれ、…心配なんだ」
イタリアはおず、と少しうつむいて黙ってしまった。俺は変わらず真剣なまなざしでイタリアの目を見る。イタリアはちら、とこちらと目を合わせた後、気まずそうに言った。
「…本当に、大丈夫なんだ。身体も悪くないし、…なんなら、仕事に”行きたい”。でも、…」
びっくりした。
仕事に行きたいだなんて、…そんな言葉をイタリアの口からきいたことが無かった。いつも、コイツはのろのろと仕事をして、隙あらばシエスタ。観光業でのんのんと稼いで、それがイタリアだ。能天気でのんびりとしたヤツ。
でも、このイタリアはどうだ?意欲はある、いつものような明るい雰囲気が無い。顔色が悪い。俺には、このイタリアが”イタリアじゃない”ように見えた。
「…とりあえず寝るだけ寝ておいてくれないか。さっき確認したら仮眠室は開いてたから大丈夫だ」
「…うん、ありがとう。…そうするよ」
イタリアは俺の言葉を聞いて申し訳なさそうに笑ってから、席を立ち仮眠室へ向かった。
イタリアがオフィスからいなくなったことを確認して、俺達は顔を見合わせた。
「…イタリアさん、大丈夫ですかね。最近なにか変ですよね、彼….。」
沈黙を破ったのは日本だった。
「ああ、おかしい。やっぱり”あの件”で相当情緒がやられてしまっているのだろうな…」
「ですね」
今はイタリアを憐れむしかなかった。イタリアは自分から言いたくなさげだし、…なんとか休んでもらって回復したらいいのだけど。
「オリーブ飲めば治るかな…」
「スペインお前、…オリーブオイル飲ませるつもりか?」
「ポルトガルもオリーブ好きだるぉ?」
「好きだけど!殺す気か!!」
真面目に悩んでいそうなイタリアを見て、俺は何かせずにはいられなかった。なんとかイタリアから聞き出して力になりたいが、イタリアの意見を尊重したい気持ちもある。俺は葛藤した。
「…どーいつっ」
「ゎ、びっくりした…エスターライヒか。どうした?」
「いやぁ、僕の出番が訪れそうな予感がしてねぇ」
オーストリアは周りを見てなんとなく察したように言った。
「イタリアのことだよね。…診てあげたいんだけど、彼は嫌そうだよね」
その通りだった。もし俺がイタリアだったら、悩み事を隠したいのに友達に勧められて医者に診てもらうことになってしまうなんて、ごめんだ。イタリアのことを考えたら、医者に突き出すなんてできなかった。
「会話の流れでさりげなく聞いてみようかな。」
「あぁ、…それがいいな。聞けるなら聞いてきてくれ」
「任して!」
オーストリアはそう言ってまたオフィスから出て行った。
「…そういえば、明日ドイツとイタリア設備点検の当番だよね?その時にも聞いてみてよ」
と、フランス。
「確かに、…二人きりだったら離しやすいかもしれない。やってみる」
「ドイツは不器用だからなぁ、ちゃんと言葉を選べよ」と小突いてくるフランスをしっしっとはらって、俺はまた仕事に戻る。
もどかしさを抱えたまま、その日の業務は終わりを迎えた。
イタリアはオフィスに戻ってくることは無かった。イタリアの話を聞きに仮眠室へと向かったオーストリアが、イタリアの荷物をまとめてあげていたから、仮眠室から会社の出口に向かい家に帰ったのだろう。俺はその時、手帳に明日の聞き出すセリフの案をひとり考えていた。