テラーノベル
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二時間後市内の「メビウス本社タワービル」に引っ越してきた神崎広告代理店社員一同は、ジェニをはじめ、一階のロビーで全員あんぐりと大口を開けてあたりを見回していた
すべての荷造りが終了し、全員がメビウスの用意したバスに乗り込んだ時には、誰もが不安がり、車内の雰囲気はとても陰鬱としたものだったが、しかしここへきて社員達に微かな希望が湧いた
メビウスタワービルは素晴らしかった、ビル正面玄関入り口には見事な噴水があり、その横にはスターバックスカフェがあった、建物の床は大理石張りの吹き抜けで、空調は熱くもない寒くもないちょうど良い温度で、完璧な40階建てのオフィスビルだった
宇宙船のコックピットのような丸い受付カウンターでは、ピンクの小さなハットをかぶった受付譲二人がやたらかん高い声で神崎広告代理店社員オフィスは21階だと案内してくれた、彼女達の声はまるで黒板を爪でひっかいたような声で、聞いて神崎広告代理店の社員が全員 「ヒィッ」と背筋を寒くした
さらに社長室は30階だと受付譲はジェニに伝えた、今や社員達は一斉に歓声を上げ、新しいオフィスへの引っ越しをみんな楽しんでいる、誰もが解雇されるのが少しでも伸びたので喜んでいるし、もしかしたらこのまま会社に残れるかもと微かな希望も見えて来た
浮かない顔をしているのはジェニだけだ、神崎広告代理店の社員達に割り当てられたワンフロアはとても素敵なグレーのカーペットが敷いてある素敵なオフィスだった。直ちに皆各々のデスクを居心地良いように飾りだした
「ここの1階のスターバックスでみんなの分テイクアウトしてあるから後で取りに行ってくるね、私憧れだったの!自社オフィスの1階にカフェがあるの」
みんなが窓を見てオフィスからの景色の良さに歓声を上げている、藤子が手際良く段ボールから自分の私物を荷解きし出した
「ねぇ!役員があなたの服装をつついた時、どうして本当の事を言わなかったの?クライアントのタイツの案件で女性社員一同 履き心地を毎日検証してるって」
藤子がクマの形をした携帯加湿器と、あひるの形のしたペン立てをデスクに飾る
「そんなの思いつかなかったの、あの時は頭に血が上っちゃって・・・ あっ!その子達はこっちよ、日影がいいわ」
「ここでいい?」
男性社員が大きな水槽を抱えてジェニに聞く
「ありがとう三浦君」
「さぁ!ニモとドリー新しい住処だよ 」
膨らませて半分水が入ったビニール袋に小さなブルーの熱帯魚が泳いでいる、その袋を三浦が破って熱帯魚を大きな水槽に放してやった
「ハム太郎のゲージは?どこに置こうか」
次に三浦がハムスターのゲージを抱えてジェニに聞く
「ニモとドリーの横がいいんじゃない?そのうち、ちゃんとした棚を買うわ 」
ジェニは段ボールの中をひっかきまわして紙とペンを出した、引っ越しの備品に必要なものを次々とメモしていく
「なぁ・・・ジェニ・・・ 今こんなこと言うのはどうかと思うけど、三か月雇用が伸びたのは良かったけど、俺は来月子供が出来るからこの先不安なんだ・・・ 」
営業担当の若い三浦が不安になるのも無理はない、ジェニは三浦の肩を叩いて励ました
「そうならないように私が今から社長と全前的にやり合ってくるわ、大丈夫!私に任せて!それより三浦君が取って来てくれた案件クライアントがとてもノリ気よ!さっそく来年のこの時期も頼みたいとか言ってきたわ」
途端に三浦の顔が明るくなった
「そっ・・・そうか・・・・俺のプールの広告案件なんてジェニに比べたら安いけどよかったよ」
そう言って三浦は引っ越し作業に戻って行った
「本当はこの忙しい時にあんな安い案件持ってくるなんてって言ってなかった?」
藤子が小さな段ボールを開けてジェニの荷解きを手伝いながら言った
「そうだけど・・・今は皆に少しでも不安になってもらいたくないの・・・それにしても役員会議をみんなで盗み聞きしていた人にとやかく言われたくないわ 」
あの時の蜘蛛の子を散らす様に逃げて行った、一番先頭に藤子がいたのを思い出してクスクス笑いながらジェニが言った
「仕方がなかったのよ!みんな自分の運命がかかっているんですもの、それにあの役員達をぎゃふんと言わせた社長も素敵だったわ!案外買収されてよかったかもね 」
「やめてよ!」
「ねぇ、あの素敵な社長の両隣りにいた人達、誰かわかったわよ! さっきカフェにテイクアウトを注文しに行った時、受付けの女の子達に聞いたの!」
「あの声の高い子達?本当に人と仲良くなるのが上手いのね」
ジェニが藤子に笑って肩をすくめた
「まずは社長の右隣にいた男性は社長のいとこさんで松下文也って言うんだって、次に松下社長の左隣の人は財務部長の浜田宗一郎、経営幹部の一人で数字の神様って言われているんだって、この会社の部長じゃなくてもどこかへのヘッジファンド会社のマネージャーになるか、独立でもすれば収入はいくらでも増やせるだろうって、みんな噂してる天才で、社長と財務部長はアメリカの大学で経営学を共に学んだ学友で、どういう訳か三人共、ものすごい良い男ぶりで、三人合わせて「メビウスのセクシートリオ」って呼ばれてるんだって、同性愛者でもない限り、ここで働く女性社員は全員あの三人の誰かを推してるんだって、ま待って・・・息つぎさせて 」
一気に吐き捨てるように言ったので藤子が息を切らしてハァハァ言う
「あなたコピーライターよりスパイになったほうがいいんじゃない?」
藤子の才能は本当にここにあるのだ、誰もが藤子と数分しゃべると信頼して何でもかんでも話してしまう、神崎広告代理店の大切な潤滑油だ、時々ジェニは不二子と出会わなかったらどんなにつまらない人生だっただろうと思わせられる時がある
「熱帯魚とハムスターを会社で飼っているのか?」
その声に二人はピタリと一時停止した、嫌な予感しかしない、ふと振り返ると松下竜馬が佇んでいた。途端に藤子をはじめ、他の社員はジェニ一人残して蜘蛛の子を散らす様に逃げて行った
これまでのお祭りムードがイッキにしぼみ、緊張がみなぎった、黒い瞳が射るようにこちらを見ている、またしても彼の機嫌をそこねたらしい、今この状況の全説明権をジェニに押し付けたまま逃げた社員達が恨めしい、やはり兄の下で長年仕事をしていると危機を察知する能力が欠如してしまうのだろうか
ジェニはさりげなく竜馬の方を見た、案の定こめかみにピクピクと血管が浮かせて激怒している、またしても彼に人員削減の要素を与えてしまったらしい
松下竜馬の目に激しい怒りが見える、新しいボスはいつも厳めしい顔つきで、こんなに怒りっぽい男性は見たことがない
「時間も守れないのか! さっさと僕のオフィスに来い! 」
彼は怒鳴った
コメント
1件
うわっ、新オフィスめちゃくちゃ豪華じゃないですか!ジェニの「1階にカフェがあるの憧れだった」ってセリフ、すごく共感します。藤子のスパイみたいな情報収集力も笑っちゃった。でも最後の松下社長の登場で一気に空気が凍る感じ、緊張感が伝わってきました。社員思いのジェニと怒りっぽい社長の対比が面白いですね。次が気になります!
#バスケ部
伊織
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蒼乃 月
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