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#山中柔太朗
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「……しゅん、それ、3回目だよ」
昼下がりのナースステーション。
処方薬のデータ入力を行っていた山中柔太朗は、パタリと手を止めて隣の曽野舜太に視線を向けた。
舜太の手元にあるキーボード。
さっきから『Enter』キーの上で指が固まり、船を漕ぐように首がガクンガクンと揺れている。
「……っあ、柔!起きてんで!!めっちゃ目冴えとるからな!」
バッと弾かれたように顔を上げた舜太は、いつものように笑ってみせた。
だが、その目はうっすらと赤く血走り、瞼は重そうに落ちかけている。
「……嘘つかないの。どうせ昨日も夜遅くまで薬学の専門書読んでたでしょ。今週ずっとだよね。ちゃんと寝てる?」
「ーっと……平均して2時間くらい……?いや!せやけど俺、若いし全然平気やって! 薬剤師として、早よみんなの役に立ちたくて……」
「……はぁ」
柔太朗は小さく溜め息をついた。
舜太は根が真面目で、誰よりも努力家だ。
自分の知識不足で患者や仲間を停滞させたくないと、ここ数日、限界を超えて勉強と業務を詰め込みまくっていた。
「……限界なんて、とっくに超えてるくせに」
「ん?柔なんか言った?」
柔太朗のアセスメントの眼は、誤魔化せない。
浅い呼吸、微かに震える指先、青白い唇。
これはギリギリでもなく、完全アウト。
「しゅん、もういいからあっちのベッドで——」
「大丈夫です! ほら、次の処方チェックも——」
強がって立ち上がろうとした、その瞬間だった。
「……ぁ、」
視界がぐにゃりと歪み、舜太の足から完全に力が抜けた。
「……っと!」
ガタタッ!!
重力に逆らえなくなった長身が倒れ込む前に、柔太朗が素早く踏み込み、その身体を正面からしっかりと抱きとめた。
「っ、……じゅ、う……、?」
「いいから、力抜いて」
舜太の額が柔太朗の肩にぽすんと預けられる。
そのまま、すとんと意識が落ちる。
「……たく、無茶しすぎなんだよ」
柔太朗は静かに息を吐くと、ぐったりと重くなった舜太の身体を持ち上げ、ナースステーション奥の処方室のベッドへ運んだ。
ベッドに横たえ、靴を脱がせる。
ブランケットを胸元までかけると、舜太は小さく唸った。
相当な負担がかかっていたのだろう、寝顔はどこか幼く、心許ない。
柔太朗はサイドチェアーを引き寄せると、そこに腰を下ろした。
冷えたおしぼりを用意して舜太の濡れた前髪を優しくかき分け、おでこに乗せてやる。
「……役立ちたいのは分かるけどさ」
スースーと規則正しい寝息を立て始めた舜太の頬に、そっと手を添える。
普段は弟みたいにワチャワチャと元気な大型犬が、こんなに小さく見えるのは切なかった。
「倒れるまで頑張られたら、周りがどれだけ心配するか……。少しは自覚してよね、しゅんちゃん、」
ポツリと呟いた柔太朗の顔には、呆れ半分、そして溢れんばかりの過保護な愛おしさが滲んでいた。
それから約3時間後。
「んぁ……?」
ゆっくりと目を開けた舜太の視界に映ったのは、静かな処方室の天井と、隣でカルテをチェックしていた柔太朗の横顔だった。
「……じゅ、…う…?」
「……起きた?」
柔太朗がすっと顔を向け、手元の端末を置く。
「……俺、たおれ……?…ごめん、俺、仕事中に寝てもうて……!」
跳ね起きようとした舜太の肩を、柔太朗がぽんと手で押さえて制した。
「動かないの。点滴はしてないけど、まだ頭重いでしょ」
「う、まぁ……。でも、俺の仕事……!」
「それなら俺と太ちゃんで全部終わらせたから大丈夫。佐野さんもよっすぃーも『舜太の身体、ボンドでベッドに貼っとけ』って言ってたよ」
「……っ」
申し訳なさと情けなさで、舜太の目がじんわりと潤む。
下を向いて拳を握りしめる舜太の頭に、ぽん、と柔太朗の大きな手が乗った。
優しい力で、ゆっくりとなで撫でされる。
「……舜太は十分すごいよ。勉強熱心なのも、みんなの力になりたいのも分かってる。
でもね、自分の体を大切にできない薬剤師に、患者さんの服薬指導は任せられないよ」
「……はい……」
「頼ってよ。俺たち、仲間でしょ?」
柔太朗の低く温かい声が、疲れた舜太の胸に深く染み渡っていく。
「……柔、すまんな。……それと、ありがと……」
「……じゃ、もう少し寝て。起きたらゼリー飲料飲むよ」
「えっ、まだ寝ないとダメなん……?」
「当たり前。あのお医者さんたちの許可が出るまで起きちゃダメ」
「もう無理やん…」
フッと小さく意地悪そうに微笑む柔太朗に、舜太はブツブツ言いながらも、心地よい安心感に包まれて再びブランケットを頭まで被った。
静かな処方室。頼れる先輩の眼差しに見守られながら、末っ子薬剤師は今度こそ安らかな眠りにつくのだった。
コメント
1件
ああ、もう…今回めっちゃ良かったです🥺💕 舜太くん、無理しすぎやけど、それだけ真剣なんやなって伝わってきて胸がギュッてなった。 柔太朗さんの「倒れるまで頑張られたら周りがどれだけ心配するか」って台詞、優しさと過保護が滲んでて、このコンビ本当に尊いです…。 最後にブランケット被って拗ねてる舜太くんも可愛くて、ほっこりしました🤍 Freesiaさんの描く関係性、いつも丁寧でじんわり来ます。続きも楽しみにしてますね🌙