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魔界城の大広間は、いつになく静まり返っていた。
そこに、人間たちは足を踏み入れる。
王子。
勇者。
そして護衛の騎士たち。
「……ここが、魔界城」
王子が息をのむ。
重く、禍々しいはずの空気。
だが――どこか、澄んでいた。
「油断するな」
勇者は低く告げ、剣から手を離さない。
その時。
小さな足音が、響いた。
とて、とて。
「……?」
人間たちの視線が、一斉にそちらを向く。
そこにいたのは――
白いドレスを着た、小さな少女。
淡い光をまとい、
夜空を映したような髪と、赤い瞳。
「……あ」
誰かが、声を漏らした。
(なに、この……)
王子の思考が、止まる。
(近づきたい。見たい。離れたくない)
理性が、警鐘を鳴らしているのに。
「……ひと?」
少女が、首をかしげた。
「……だれ?」
その声。
たったそれだけで。
勇者の膝が、がくりと落ちた。
「……っ!」
剣を支えに、なんとか体勢を保つ。
(なんだ……この圧は)
魔力ではない。
威圧でもない。
――“存在”そのものだ。
「セラフィナ様!」
慌てて駆け寄る、侍女リリア。
「こちらへ……!」
「りりあ?」
少女――セラフィナは、きょとんとしたまま、人間たちを見る。
「……あの?」
その瞬間。
大広間の空気が、凍りついた。
「それ以上、近づくな」
低く、鋭い声。
クロウ・フェルゼンが、人間たちの前に立ちはだかる。
剣は抜いていない。
だが、その気配は――完全に“戦”だった。
「……姫君に視線を向けるな」
王子は、ようやく我に返る。
「……失礼を」
ゆっくりと、片膝をついた。
「我らは敵意をもって来たわけではない」
だが。
視線は、どうしても、彼女を追ってしまう。
(……見てはいけない)
分かっているのに。
セラフィナは、クロウの背中から、ひょこっと顔を出した。
#独占欲
#ハッピーエンド
「くろう……」
小さな手が、彼の服をつかむ。
「こわいひと?」
クロウの肩が、ぴくりと揺れた。
「……いいえ」
一瞬で、声が柔らぐ。
「あなたに、危害を加える者ではありません」
(俺が、許さない)
その視線だけが、はっきりと語っていた。
人間たちは、理解する。
――これが。
魔王の娘。
恐怖でも、暴力でもない。
ただ、存在するだけで、
世界の秩序を揺るがす――
“禁忌”だということを。
「……また、会える?」
不意に、セラフィナが言った。
「……?」
王子は、思わず顔を上げた。
赤い瞳が、まっすぐにこちらを見る。
「……おともだち、なる?」
その場にいた全員の心が、
決定的に――落ちた。