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さっそく新作ありがとうございます😢✨ 前作の余韻に浸っていたのですごく嬉しいです◎ これもまたとても続きが気になる雰囲気で展開が楽しみです…!
傾きはじめた陽射しが、アスファルトの道に長い影を落とす。
遠くから聞こえる蝉の声を感じながら、俺はクラスメイト数人と例のお祭りへと向かっていた。
田舎の町の、地域の人達だけのお祭り。
決して賑わっている訳では無いし、大掛かりでも無い。
だけれど、どこか懐かしさを感じるこの光景に、俺は胸を弾ませていた。
そして何より、あの人にもう一度会えたらなんて、淡い期待を抱いていた。
色とりどりの光の中を、友達と笑いながら歩く。
焼きそばを食べて、ふざけたお面を買って。
みんなでラムネの早飲み競争なんかをして。
楽しい時間を過ごしたけれど、俺はずっとどこか上の空だった。
ちらりと、あの山の方へ視線を送る。
10年前の話だ、今行ったところで会えるはずはないのに。
それでも、今になって何度も見たあの夢の出来事を、確かめずにはいられなかった。
「なあ、この後どうする?」
友人の内の一人が、何気なく口にしたその言葉に、俺の耳が反応した。
せっかく皆でお祭りに来ているのに、途中で抜けたりなんかしたら空気が冷めてしまう。
そんな事は分かっていた。
けれど、今日を逃したらもうあの夢について確かめる機会が無くなってしまうんじゃないか、そんな気がしていた。
「あ、あのさ………」
友人達の様子を伺いながら、ぽつりと声を漏らす。
「俺、今日はここで抜けていいかな?ちょっと用事あって………。」
転校してきてまだ数ヶ月。
好意で輪に入れてくれてるのに、それを乱すような真似をして申し訳ない。
そんな罪悪感を抱きながら友人達にそう問いかけると、彼らはさらりとこう言った。
「別にいいよー。」
「連絡すっから、夏休みまた遊ぼうな。」
構えていた自分が馬鹿に思えるくらい、彼らは気持ち良く了承してくれた。
良い仲間に出会えて、良かった。
そんな風に胸を撫で下ろして、彼らに別れを告げながら、俺は例の山に向かって走り出した。
山へと足を進める俺を見て、友人達が怪訝な顔をしているとも知らずに。
パキッと枝を踏む音が、何も無い静かな山に響く。
この山は相変わらず手入れされていないようで、草木が無造作に生い茂っていた。
葉をかけ分けて、前へ進む。
そもそも、 あの神社がどこにあるのかすらも分からないのに。
俺はどうしても、そこへ向かわなければいけない気がしていた。
膝に手をついて、上がった呼吸を整える。
これだけ探しても見つからないなんて、そんな事があるだろうか。
落し物を探している訳じゃないんだ。
いくら小さな神社とは言え、こんな山の中にあれば目立つはず。
それなのにどうして、見つからないんだ。
もし取り壊しされてたとしても、神社があった跡が残っているはず。
それすらも、無い。
まるで俺があの日見た神社が、この世のものではないと、神様に言われているような気分だった。
もう少しだけ探して、帰ろう。
そんな半分諦めながら、もう一度足を踏み出したその時だった。
あの日を思い出すような、まるで体が宙に浮いてしまうくらいの強風が吹いた。
固く目を瞑り、風に飛ばされないよう体に力を入れる。
ほんの数秒、風が止み、まるで何事も無かったかのように辺りは静寂に包まれた。
ゆっくりと、瞼を開ける。
そこには、さっきまで無かったはずの神社が建っていた。
「………あっ、た……。」
驚きよりも前に、無事に見つけたことへの安堵が滲んできてしまう。
明らかにさっきまでそこには、何も無かった。
一瞬で建物が現れるなんてことは無い、そんなのは当然のこと。
けれどずっと探していたものを見つけた俺は、何の迷いもなくその境内に足を踏み入れた。
苔むした鳥居と、ほつれた注連縄、石段の隙間には雑草が生えている。
俺があの日見た光景、そのままだった。
息を呑んで鳥居をくぐり、奥へと向かっていく。
興味本位で、古びた社を覗き込んだその瞬間だった。
「何してるの!!」
突然背後から大きな声がして、咄嗟に振り返る。
俺の視線の先には、あの青年が立っていた。
風を受けて、絹みたいにほどける黒髪。
光に溶けそうなほど、淡い白い肌。
緩やかに、伏せたような目。
微かな力で揺れてしまいそうな、細い体。
間違いない、彼だ。
まさか本当に会えるとは思っていなくて、思わず息が揺らいでしまう。
でもすぐに彼の姿を見て、ある違和感に気が付いた。
10年前と、何も変わっていない。
老けてもいなければ、成長もしていない。
まるで、俺が見たあの日の姿をそのまま写したみたいだった。
眉間に皺を寄せて、俺を睨みつける彼を見つめる。
あの時は大人っぽく見えたけれど、今こうしてみるとまだ、あどけなさが残っているように感じた。
今の俺と、同い年くらいだろうか。
「ここは、君みたいな子が来ていい場所じゃないの。悪いことは言わない、今すぐ出てって。」
「え、えっと……俺………」
強く、まるで叱りつけるような口調で話され戸惑ってしまう。
ここに足を踏み入れた事に対して怒っているようだったけれど、何故そこまで拒むのか理由が分からなかった。
「………急にお邪魔してしまった事に対しては、謝ります。でも俺、昔ここに一度だけ来たことがあって……。」
「…………え?」
「10年前、貴方と会ったことがあるんです。それを何故か、ついこの前から急に思い出すようになって………理由を確かめるために、貴方に会いに来たんです。」
決して茶化しに来た訳ではないと、俺は誤解が生まれないように、ここへ来た理由を彼に説明した。
その言葉を聞いた彼は、一瞬目を見開いた。
そしてすぐに、影を落とすようにそっと目を伏せた。
「………覚えて、ませんか?」
何が言いたげな彼の表情を探るように、静かに声をかける。
俺からの問いかけに彼は、首を横に振った。
「ううん、よく覚えてるよ。君が、ここ最近で一番最後に出会った人間だから。」
その答えに俺は、引っかかりを覚えた。
10年前に俺と会って以降、誰とも顔を合わせていない、そんな言い方なような気がした。
「そっか、それなら俺のせいだね。きっと寂しくて、誰かを呼びたくなってしまったんだ。
新しい人間の記憶が君だったから、無意識に俺が、君をここまで連れて来てしまったんだろう。」
「巻き込んじゃって、ごめんね。」
大きな瞳に睫毛の影を作り、首を傾げながら微笑まれる。
その姿に、胸がざわついた。
「あ、あ…えっと、その……」
あまりにも儚い表情に、思わずたじろいでしまう。
「いや、俺は何も迷惑かかってないので……大丈夫、です。」
彼の言葉の意味も理解出来ていないのに、黙っていられなくて口が勝手に動いてしまう。
何だか上手く目を合わせることが出来なくて、視線を泳がせていると彼がぽつりと呟いた。
「駄目だな俺………ずっとひとりだったのに、また寂しいなんて思っちゃって。」
か細く出された声が気になって、ちらりと彼の事を横目で見つめてしまう。
眉尻を下げ瞳を揺らし、今にも泣き出しそうなその表情を見て、俺の心が動いた。
「………あの、明日もここにいますか?」
俺の声に彼は、俯いていた顔をゆっくりと上げる。
「え、……居るっていうか………俺はもうここから離れることが出来ないから……」
「じゃあ俺、明日またここに来てもいいですか?」
「は?え、なんで?」
「だって………寂しいんでしょ?」
その言葉に彼は震える唇を、きゅっと噛み締めた。
「俺が来れば1人じゃないから、寂しくない。それに俺も、夏休み期間の暇つぶしにもなるし。お互いにとって、良い事しか無くない?」
「…………でも、」
「来ちゃ駄目な理由があるなら、ちゃんと教えてくれないと俺納得できません。」
「それは、上手く説明できないというか………。」
「じゃあ、来てもいいってこと?」
ぐいぐいと詰め寄る俺に、彼は返す言葉が無いようで。
戸惑いながら、口が開いてはまた閉じてを繰り返していた。
「…………もう、分かったよ。」
ため息混じりのその言葉に、俺の口角がにやりと上がる。
彼は呆れたような、でもどこか嬉しさが隠せてないようなそんな表情をしていた。
「確かにここで断っても、また俺が君を呼んじゃうかもしれないし。それならいっその事、君の方から出向いてくれた方が楽かもしれない……。」
「明日、来てもいいんだね?」
「駄目って言ってもどうせ君来ちゃうでしょ……。山の中彷徨われるくらいなら、俺の所まで来て貰った方がマシ。
ただし、この神社の中では俺の言うことを絶対聞くこと。分かったね?」
「ふふっ、はーい!」
まるで幼い子供との約束事みたいに言われ、可笑しくて笑みが零れてしまう。
そんな俺の笑顔見た彼も、ふっと表情を和らげた。
「とりあえず、今日はもう帰りな。明日また、来ていいから。」
「分かった!明日……んー、何時がいい?」
「何時でもいいよ。俺はいつも、ここに居るから。」
「じゃあ、昼飯食ったら来る!」
「はいはい、分かった分かった。ほら、もう行きなって。」
「はーい!じゃ、また明日ねー!」
両腕を大きく振ると、彼も笑いながら手を振り返してくれる。
その笑顔にはえくぼが出来ていて、少し可愛いな、なんて思えてしまった。
境内を飛び出し、小走りで山を下りていく。
心地の良い風が吹き抜け、空気が変わるような感覚を、肌で感じた。
足を止め、息を潜めながらゆっくりと振り返る。
さっきまで俺がいたはずの神社は、何処にも無くて。
ただ一面、何かを隠すように草木が生い茂っているだけだった。