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Asahi
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「削除された“好き”」
彼女と出会ったのは、マッチングアプリだった。
最初のメッセージは短かった。
「こんにちは。たぶん、合うと思います」
根拠はないのに、不思議と納得した。
やり取りは妙に自然で、無理がなかった。
好きな映画も、嫌いな食べ物も、過去の恋愛も。
まるで最初から知っていたみたいに一致していった。
初めて会った日、彼女は遅れて来た。
「ごめん、ちょっと迷ってた」
そう言って笑った顔に、なぜか安心した。
その日から、付き合うまでに時間はかからなかった。
ただ一つだけ、違和感があった。
彼女は“好き”という言葉をあまり使わない。
代わりにこう言う。
「ここ、落ち着くね」
「一緒にいるのが普通みたい」
普通。それが心地よかった。
ある日、ふと気になって聞いた。
「どうして好きって言わないの?」
彼女は少し黙ってから言った。
「言葉にすると、消える気がするから」
冗談だと思った。
でも、その夜からおかしくなった。
LINEの履歴から「好き」という単語だけが消えていた。
最初は気のせいだと思った。
でも過去のメッセージを遡るほど、不自然に空白が増えていく。
まるで“好き”という感情だけが、編集されているみたいだった。
彼女に会ったとき、その話をした。
彼女は少し困った顔をして言った。
「やっぱり、見つけちゃったんだね」
「何を?」
彼女は答えなかった。
代わりに、スマホを取り出して見せてきた。
そこには、私との会話がリアルタイムで表示されていた。
でも内容が違う。
私の発言は、すべて丁寧で他人行儀だった。
そして彼女の最後のメッセージはこうなっていた。
「まだ“好き”を復元しないでね」
「どういうこと?」
彼女は少し笑って、言った。
「あなたはいつも、“好き”を最後に消す人だから」
その瞬間、思い出した。
過去の恋愛。
全部、終わる直前に必ず自分が言っていた。
——「好きかどうか分からなくなった」
彼女が続ける。
「だから今回は、先に消しておいたの」
スマホの画面から、また一つ言葉が消えた。
今度は「私」。
彼女の名前が、連絡先から消えていく。
目の前の彼女はまだそこにいるのに。
最後に彼女はこう言った。
「これで安心だね。もう“好き”にならないから」
その瞬間、私は気づいた。
消えているのは言葉じゃない。
私のほうだった。
コメント
1件
あ、すごく好きです……。“言葉にすると消える気がする”って台詞、最初は詩的に聞こえたのに、最後まで読むと主人公の“好きを最後に消す自分”を彼女が見抜いた上での防御策だったんだなってゾッとしました。消えていくのが言葉じゃなくて自分だった——この反転、すごく切なくて心に残りました。次の展開が気になります🌷