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「十字路に魔物か……」
「えっ?」
「あ、いや……ちょっと非現実的な話になるんだけどさ。精神世界とか本当にあんのかなーって思って」
少し躊躇はしたが、冗談程度にスピリチュアルに興味があることを伝えた。思いのほか匡は食いつきがよく、死後の世界は信じていると話した。
「どんな物にも命が宿るって言うし、俺は悪魔や妖精も信じてますよ。外国ならもっと浸透してるでしょうし」
「そ、そっか」
白露のようなことを言う。いや、最近は信じてる人が多いんだ。自分は、魔法や心霊といったファンタジーな話は中学までが限界だった。高校からはだいぶ冷めた考えを持つようになったと思う。
現実に追われると、非現実的なことには目もくれなくなる。でも幽霊も、信じてる人間の前にしか姿を見せないと言うし……。
少し息が詰まって、何でもない様に指を鳴らした。
「俺の友達が、十年も自分の世界に閉じこもって出てこないんだよ。だから連れ戻しに行くんだ」
「へ、へぇ。何か大変みたいですね」
匡は本当に素直で人がいい。ふざけた話を馬鹿にもせず、心配そうに親友のことを訊いてきた。
「清心さんなら大丈夫ですよ。お友達も、絶対納得してくれます」
「ありがと。それだといいなぁ」
二人で笑い合った。この光景も、傍から見れば“友人”同士だ。
そうでありたい、と思う。身体の関係なんかじゃなく、ひとりの人間として、彼と長く付き合っていきたい。
「匡、まだ体調良くないだろ。今日も泊まってっていいぞ」
実は先程から、彼の指先が震えてる。寒いのか訊くと、彼は悩みながらも頷いた。
「病院に行った方がいいと思うけど……」
「大丈夫です。たまにあるんです、これ。胸の中が氷みたいに冷たくなって、身体もガチガチになるの。慣れた気がしてたんですけど」
可笑しそうに笑う匡を、自分のベッドに寝かせた。軽く触れた指先は、本当に冷たい。暖房をつけ、頬にそっと手を当てた。
「清心さんの手、あったかくて気持ちいいです」
寝かしつけるように頭を撫でると、彼は簡単に眠りに落ちた。
部屋から出て、静かに戸を閉める。
誰かを家に入れたのが久しぶりだから落ち着かない。確認すると匡は財布しか持ってなかった。スマホも持たずに昨日は出掛けたようだ。
自分と連絡が取れないから、会えるかもしれない店に訪れた。そう都合よく解釈すると何だか面白い。