「婚約者の方が……!」
彼の突然の告白には、インタビュアーの男性も少なからず驚いているようだった。
ただ驚きの度合いで言ったら、当の私の比じゃなかったかもしれないけれど……。
「彼女には、婚約指輪を贈っているんだが……」
そこまで話して、彼はふと画面というか正確にはテレビカメラなんだろうけどを、つぶさに見つめた。
指輪……と、今も嵌めている左手に目を落としていると、
「……実は、まだ私はしていないことがあるんだ」
彼がそう口にして、”していないこと”って? と、首をひねった。
だってまさかのあのことだとは思えなかったし、まして貴仁さんがそれを想定してるだなんて、到底考えもつかなかったから……。
だから次の瞬間、彼の口から発せられた、
「プロポーズがまだだったので、ここでしてもいいだろうか?」
不意の言葉に、これまでにない動揺が一気に押し寄せた──。
「プ、プロポーズって、待って! えっ、いやちょっと、本当にですか⁉ 貴仁さんっ!」
目の前に彼がいるわけでもないのに、気が動転してひとり大声を上げる。
「あっ、え、プロポーズを? は、はい、よろしければ!」
アナウンサーがとっさに答えると、カメラが彼を撮らえるべくアップで迫った──。
「……彩花」
名前を呼ばれて、ドクンと心臓が跳ねる。
「はっ、はい……」
画面の彼と向かい合うよう正座をして、膝に両手を置いてかしこまる。
「私と、結婚をしてくれないか」
彼そのままに飾り気のないシンプルなプロポーズが、胸に一直線に突き刺さる。
「……は、はい、はい、はい……貴仁さん」
何回「はい」って言うのよと、心の中で自分に言い聞かせる。
あまりに思いがけなさ過ぎて、そうして自らを落ち着かせなければ、その場で意識が飛んでしまいそうだった。
コメント
2件
公共の放送でプロポーズなんて素敵すぎる💓
何故に、テレビで‥でも、彼らしいかなぁ🤭