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(エトワール・ヴィアラッテアと出会ってから……)
この世界の物語の始まりは、偽物の聖女が召喚されるところから始まる。本筋は、初めてリリースされた当初は、すでに偽物がいる世界に本物の聖女を求めて、新たに召還されたヒロインの視点から始まる。ヒロインは、本物の聖女の特徴を持っているがゆえに、優遇され、そうでない偽物はひどい仕打ちを受け、無視され軽蔑されと、散々な扱いを受ける――
ここまでが知っている話であり、始まりを、エトワール視点からにするか、ヒロイン視点、つまりはトワイライト視点から始まりとするかで変わってくる。でも、この世界の起点は、エトワールが召喚されたことにより始まっているため、それまでの記憶が正常で、それ以降の記憶が正常じゃない、書き変わる可能性のあるもの、と考えると、ブライトが、エトワール・ヴィアラッテアがきてから、という発言にも頷けた。
そこが機転であり、回っている世界であるなら、私が、エトワール・ヴィアラッテアにならなくても、いつかは誰かがエトワール・ヴィアラッテアの中に入って世界を動かしていくのではないかとも思えてきた。何が正しいとか、正しくないとか、どう世界は回っていくのだとか分からないけれど、まず、そこが機転で、始まりであることは確かだった。
それ以前の記憶は、記憶というデータとしてこの世界の住民に刻まれているのではないかと。
(でも、エトワール・ヴィアラッテアが記憶をどうこうしているっていう線も考えられなくはないんだよね……)
最近までそういう話を聞かなかった。攻略キャラと関わっていないのもそうなのだが、ブライトがそう直接いったということは、もしかしたら、記憶操作が行われているのかもしれないという疑惑が浮上してくる。
さすがのエトワール・ヴィアラッテアも気づいたのか、攻略キャラをこれ以上手放さないために何か策を報じてきたのかもしれない。そう思うと、恐ろしすぎて何も言えなくなってしまった。
(まだ、そうとは決まったわけじゃないけれど、なんだか、その線が濃厚なんだよね……)
やっぱり、早いうちに、ブライトとの関係は築いておかなければ天秤にかけられた時、どう考えても選んでもらえなくなるのだ。それだけは、阻止したいところで――
「僕は、何か忘れているんでしょうか」
「忘れてるって思っているんなら、忘れてるんじゃないかな。私からは何も言えない」
「……言えないのではなく、言わせてもらえないとか、何ですか」
「え?」
「ステラ様を見ていると、なんだかそんなふうに思えてきて」
「そ、そんなことないよ!てか、ブライトみたいな人一回見たら忘れないと思うけどなあ……」
また、苦し紛れ。
というか、この言い訳を何回使っているんだという話にもなる。さすがのブライトも、同じ言葉を欠けられているためか、あはは……なんて、乾いた笑みしか返ってこなくなる。ごめん! と思いながらも、ブライトみたいな人を一回見たら忘れないのもまた事実なのではないかと思った。だって、艶やかすぎる、漆黒の髪に、宝石と同等の輝きを放つアメジストの瞳。優し気な笑顔、はかなげ美人……一度見たら誰だってとりこになると思うんだけどなあ……と。だから、面食いとか言われるけれど、イケメンを見たら、半分以上は二度見するだろう。わかんないけど!
「ごほん……僕の容姿については、もう大丈夫です」
「語彙力もっと増やして、褒めれるようにするね!」
「そ、そういうのではなく……本当にステラ様は面白い人ですね」
「面白い……のかな?」
「ファウも、そんなステラ様の面白くて、強いところに惹かれたのかもしれませんね……人見知りなんですよ。ね?」
と、ブライトは、ファウダーの方を見る。そうなの? と私が食い気味にみれば、うんと、ファウダーは首を縦に振った。まあ、確かに、人見知り……の部類に入るのかもしれないが、人見知り? なのか? とも思えてきた。ファウダーからあまりしゃべりかけてこないという面においては、人見知りという物に入るのかもしれない。それを、ブライトも、人見知りだ、という枠に入れているのが、また面白いところではあるが。
ブライトは、ファウダーを名指しするが、彼とは一定の距離をとっていた。やはり、触れるのはブライトであってもNG行為なのだろう。触れたら、ブライトであっても、感情をぐちゃぐちゃに搔き乱されると。
精神攻撃は、防ぎようがないのかもしれない。その人間の心の持ちようによって、防げるのかもしれないが、弱っているところに付け込まれたら、そりゃ、一瞬で落ちてしまうだろうというのが、なんとなく見てわかる。
「ボク、人見知り」
「……」
「…………」
「だよ?」
ねえ、わざとやってる!?
また、こてんと首を傾げ、そのうえで、きょとんとした顔のコンボ。天然を装っているのか、天然なのか。まあ、もうどっちでもいいんだけど、それにしてもあざとかった。でも、あざとすぎる故に、言葉が出なかった。なんていえばいいのだろうか。ブライトも固まってしまって、何も言えない。
破壊力と、虚無が同居しているようだった。
二人して、ぽかんとしてしまっては、いけないと、私はどうにか自分で自分を叩く形で、正気に戻る。
「そ、そっか。人見知りもあったんだ。ごめん、いきなり話しかけて」
「ううん、大丈夫。ボクステラともっといっぱい喋りたい。だから、おにぃ、お願いだから。もう少し一緒にいさせて?」
「ステラ様……ファウ……」
「おにぃ、ボクのこと嫌いなの?」
うっ……!
ブライトではなく、私に精神的ダメージが入った。いい意味で。可愛すぎるそのしぐさは、どう考えても計算しているものにしか思えなくて、私は、ファウダーがかなりやり手に見えてしまう。まあ、人の感情を熟知している混沌だ。ブライトの心を揺さぶることも、容易なのだろう。それに、どうブライトが反応するか、見ものではある。
私だったら、一発で許してしまうが、実際、ブラコンと言われながらも、ブラコンじゃなかったブライトがどんな風に対応するかは、私にはわからなかった。ちらりと、見ればブライトもかなり動揺していて、「嫌いなの?」と聞かれ、嫌いとは答えづらい、と言ったような表情でファウダーを見つめていた。完全に、ファウダーの追撃によって、成り立っている現状に、私は、笑いをこらえるしかない。自分の力が及んでいない、というのはそうだし、信頼関係は、きっと、ファウダーの方が上なのだろう。
一応、弟であるという事実からは両者逃れられないのだから。
「ステラ様」
「何?」
「先ほどの、取引の話なんですけど。貴方を信じても大丈夫ですか?」
「それは、私にゆだねるんじゃなくて、ブライトが決めることじゃない?私は、いいよ、信じてほしいっていうけど。それじゃあ、フェアじゃないでしょ?それに、ブライトの意思じゃない」
そこまでは、求めていない。私に全て委ねてくれ、というのは暴論で、そこまでは望んでいない。思考を放棄した人は、もっと言えば私にとっていらない人物なのだ。
だって、それじゃあ、洗脳と同じだから。エトワール・ヴィアラッテアみたいに、私はなりたくない。人が付け入るスキがないくらい、自分で物事を考え、その上で、判断する。そういう人が、今私の近くにはほしい。
ブライトは、少し考えた後、ふう、と息を吐いて、決心したように私を見た。何度迷って、そこにたどり着いたか、私には分からない。でも、かき集めた、彼の中の私への信頼が、その顔を作ったんだろうと、私は想像した。少しうれしかった。
「取引、します。僕に、貴方を信じさせてください――ステラ様」