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#SnowMan
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翌朝、宮舘にかなり早めに起こされた渡辺は、時間通りに阿部と合流することができ、商品として確定している人魚の異能を持つ子の家まで向かった。
《成瀬》と書かれた表札の家。チャイムを鳴らして特務調査局だと名乗ると開けてくれて、リビングへと通される。
💚「すみません、朝早くから。警察から話は聞いてると思いますが」
「はい。娘の、みあのことですよね」
💚「そうです。詳しく、聞かせてもらえますか?」
母親の話では、みあは異能に特化した中学校に通っているという事だった。姿が変化する特異性から、通常の学校では何かあった時に対処することができないためだ。みあが人魚になるのは、体の30%以上が水で濡れた時。それは水に限らず、液体であれば何でもということだった。つまり、土砂降りの雨やお風呂のお湯は当然のことながら、ジュースやスープなどでも変化してしまう。大きくなった今ではないけれど、幼少の頃には大変だったと母親は語った。
みあが行方不明になったのは、五日前。学校から帰ってこなかった。その日は快晴で、雨の心配はなかった。どこかで水に濡れるようなことがあったとしても、携帯電話を持たせてあるから助けは呼べる。けれど、繋がらない。位置情報を頼りに探すと、バッグだけが落ちており、そこから行方が分からない。
「生きてくれているのはもちろん嬉しいです。でも、オークションなんて……」
💚「大丈夫です。そのために、僕たちがいますから。絶対、みあさんを助け出します」
「……よろしく、お願いします」
二人目は、《石川宙夢-ひろむ-》六歳。異能は、歌声がハープのような音色で聞こえるというもの。声が楽器になるという異能そのものは珍しいものではなく、通常時の声は普通の男の子。だから、特別な小学校に通っているわけではなかった。歌わなければ普通の子なのだから、人に影響を及ぼすことなどない。
だからこそ、両親も「うちの子が何故」という風に不思議がっていた。
候補の内の三人目は家出。四人目は料金未払いで携帯電話が止まったあげく、家賃も支払えなくなったから友人宅へ泊まっていた為に行方が分からなくなっていただけで元気だった。
そして五人目。警察から渡された写真を渡辺と一緒に見る。
💚「小笠原瑞希さん、19歳、大学生。異能は、踊りによる天候操作」
💙「天候操作? 天気、変えられんの?」
💚「そこまでではないみたい。踊りっていうか、舞っていうか、対応する踊りで天候に関する現象が起こる。例えば、夏なのに雪が降るとか、夜なのに虹が出るとか、雨も降ってないのに雷が鳴るとかね」
💙「天気自体じゃないのか」
💚「そう。現象系だから、一般的な異能なんだよね。うちも、炎、氷、花、葉、電気、岩、鋼って、ほとんどが現象系だから。一番、異能の中では多い種類じゃないかな。だからこそ、どうしてオークションの候補に挙がってるのかが分からない。結局、ただの行方不明かオークションに関わってるのかまでは調べきれなかったからね」
調べてみると、大学生で一人暮らしをしているからか、誰も彼女の行方を知る人物はいなかった。大学でも、特定の友達と行動するようなタイプではなく、時間さえあればひたすらダンスに磨きをかけているようで、大学に行って訊いてみても「どうして休んでいるのかは分からない」という回答しか得られなかった。
💚「とりあえず、ここまで分かったことを共有しよう」
イヤホンに触れる。今日は別行動だから、皆がイヤホンを付けて調査にあたっているので、グループ通話にする。
💚「みんな。分かったことを共有するね」
それから、これまでに調べたことを話していく。みんなはただ黙って阿部の話を聞いていた。
💚「だから候補のうち、二人目が確定した感じ。三人目は不確定だったけど、オークションにいると思ってた方がいいかも」
💜『そうだね。違ってたとしても問題はないし、本人がいればラッキーくらいにしておこうか』
💚「四人目と五人目の情報はないから、もう少し調べてみるね」
💜『うん。お願い。照とめめは、どう?』
💛『中は客だらけだし、相当広い会場だから入っててもバレる心配はなさそうだ』
🖤『なんか、仮面舞踏会みたいに顔隠してるから余裕っす』
💜『でも慎重にね。照とめめなら大丈夫だとは思ってるけど』
🖤『はい』
💛『このまま、商品になってる子たちの捜索を続ける』
そこで通信を切り、阿部は持っていた写真をバッグに入れる。
💚「さて、警察が絞ってた候補はここまで。あとの二人を捜さないとだけど、正直、情報はないんだよね。昨日、電脳空間に行って今回のオークション関連のこととか、候補に挙がってる人のこととか少し調べてみたんだけど、やっぱりネット上で拾えるものはなかった」
💙「そりゃそうだよな。ネットに書き込んだら簡単に捕まる」
💚「そう。だから、あとは行方不明者を当たってみるしかないんだけど、共通点が見当たらないんだよ。年齢も性別も、容姿の特徴もバラバラ。異能に関してもね」
💙「調べるって、電脳空間?」
💚「の方がいいかな。でも、特務調査局まで戻ってる時間もないし……どこか、人目につかないところにでも行けたらいいんだけど」
そうして考え込んでいる時だった。
背後から伸びてきた手が、それぞれ阿部と渡辺の口を塞ぐ。
💚「っ?!」
けれど瞬間的に阿部の目が碧色に輝き、電気が放出されたことで阿部からも、渡辺からもその人物が離れた。
振り返れば、そこにはチャコールグレーの制服のようなスーツに身を包んだ男が五人、立っていた。その手には黒い手袋。そこには、LOTから逃げ出した男の手の甲に刻印されていたものと同じLOTの徽章が銀色で小さく刻まれている。
💚「この人たち、LOTだ。なんで……邪魔しに来た?」
バチバチと体から電気が溢れている阿部の横で、渡辺も無数の花びらを出現させている。
💙「阿部ちゃん、助かった」
💚「ううん。前に、美上に捕まったから対処法は分かってる」
💙「そういうのも、勉強に繋がるのな」
💚「ふふっ、そうみたい」
拘束から抜け出たのは想定外だろうが、焦った様子のないLOT。その全員が無表情で、組織の一員というのが滲み出ている。恐らく、任務遂行のための部隊なのだろう。
男の一人が手を掲げた瞬間、少し離れた駐輪場から、けたたましい金属音が響いた。何台もの自転車が宙へ浮かび、一斉に、阿部に向かって飛んでくる。阿部は咄嗟に手を前に出して電磁波のシールドを円状に展開すると、シールドに当たった自転車はその場に落ちた。
💚「……なるほどね」
次の瞬間、道路脇から鈍い金属音が響く。設置されていた自動販売機が大きく揺れ、地面から引き剥がされた。
💙「うわっ! 自販機、浮いたじゃん!」
💚「おおー。結構、出力使うね」
💙「え、阿部ちゃん、あれ見てもそんなもん?」
💚「まあ、見ててよ」
案の定、阿部の方に向かって勢いよく飛んでくる自動販売機を見据え、阿部は人差し指を向けた。
すると飛んでいた自動販売機はピタリと止まると、自動販売機を飛ばした男に向かっていき、男にぶつかってそのまま背中から倒れた。
💙「え……ヤバ。何したの?」
💚「んー。磁力っぽかったから、俺の電磁力で上書きして支配権、奪っちゃった」
💙「うわ……あいつ、死んでない?」
💚「まさか。ちゃんと加減したよ」
💙「エグッ」
こうして普通に会話をしていられるのも、翔太の花びらが二人の体の周りを舞っており、結界が出来上がっているからだ。
それでも、油断するつもりはない。制圧するまで、あと四人。
ふわーっと、視界が白く変わっていく。
💚「霧……?」
眉を顰める。隣の渡辺の姿は視認できる、けれどLOTの姿は完全に見えなくなった。だが、それは向こうも同じ筈。
💚「翔太、離れないで」
💙「阿部ちゃんこそ」
けれどそこで、何かが物凄いスピードで飛んでくるのが、周囲を覆う白い霧のようなものが切り裂かれたことで分かった。それはちょうど、阿部と渡辺を裂くように飛んできたために、左右に避けるしかなかった。
💚「翔太! 大丈夫!?」
💙「平気! 阿部ちゃんは!?」
💚「俺も大丈夫!」
しかし、空気を裂くように飛んでくるそれは、次から次へと襲ってきて、阿部も渡辺も避けることしかできない。
阿部と分断されてしまったことで、花びらは渡辺の周囲にしかない。本当は離れたくなかったけれど、この飛んでくる何かを攻略しなければ、阿部と合流することはできない。
だから、渡辺は花びらの枚数を増やす。あの飛んできているものの正体を掴むために。
飛んでくる見えないそれは、絶妙に渡辺に当たらないラインを通っている。だから、花びらの範囲を広げる。量を増やす。当たる確率を増やせば、その分、攻略を早められる筈だから。
そうして何度目かになる攻撃―――触った。
💙「今の……風か。なら、簡単だな」
ニヤリと渡辺の口角が上がる。
ぶわっと、花びらの量が先ほどよりも数倍になり、その範囲も圧倒的に広くなる。そして全ての花びらが結晶化した。
💙「もう逃げる必要ねえな」
結晶になった花びらが一斉に、飛んでくる風の方に向かっていく。花びらが風に触れると瞬時に花びらが集まって花―――《結晶花-けっしょうか-》を形成し、それがどんどん先の方で出来上がる。渡辺は一歩も動いていない。ただ、結晶花だけが道を作るように出来上がっている。
そして。
💙「捉えた」
霧の先に見つけた男の姿に、結晶花は瞬時に分かれて結晶の花びらになると、男の体を容赦なく切り裂いた。
💙「ったく、手間かけさせやがって。阿部ちゃんに何かあったらどうすんだよ」
言いながら、再び花びらを出現させて、視界が悪い中で阿部の姿を捜し始めた。
渡辺と分断されてから、阿部は視界を遮るものの正体について考えを巡らせている。飛んできているものは無差別で、確実に阿部を狙っているとは思えないほどに命中度が低い。つまり、見えていないのは相手も同じ。
💚「ということは、この霧と、飛んできてるものは別の異能の可能性が高い。じゃあ、この霧をどうにかすれば突破口は見えそうだ」
飛んできているものを避けながら、考える。
💚「これ、霧だと思ったけど、湿度は上がってない。濡れる感じもないし。霧なら相当な水滴がある筈なのに。霧でも雲でもないとしたら……煙か、粉? 粉だったら、粉塵爆発しちゃうからマズいな。そんなに質量はなさそうだけど、浮遊させ続けられる能力の可能性もある」
何か、決定打がほしい。
これが何によって視界を遮っているのか、どういう異能なのか。
不意に、阿部の視界に花びらが映り込む。それは瞬時に結晶化したことで、渡辺の花びらだというのがすぐに分かった。この分なら渡辺は大丈夫そうだと、気合いを入れるように息をつく。
周囲を見ても、誰の姿もない。3秒。たった3秒あればいける。一度目を閉じ、前を見据える阿部の目は翠色に輝いている。
―――見えた。
すぐに目が碧色になると、阿部は手を前に出した。煙の中を、雷光のような青白い電流が枝分かれしながら駆け抜けていき、一気に視界がクリアになった。
少し視線を巡らせれば、足元に煙が漂っている男がいるのが分かる。だから阿部は足元に電磁力を集中させて、地面に這わせた電磁力と反発するように作用させると一気に男と距離を縮め、その勢いのまま回し蹴りを食らわせた。
視線をずらすと倒れている男がもう一人いるので、恐らくは渡辺が倒したのだろう。
これであとは、二人。
その時だった。視界の端に映ったものに、阿部は咄嗟に振り返るけれど、それは阿部の目の前で弾けると、衝撃で阿部の体が後方に吹き飛んだ。
💚「うっ……」
地面に叩きつけられて、痛む体を起こす。今、何か爆発した。
周囲に浮いているのは―――泡。
それは一人の男の手からブクブクと音を立てながら、次から次へと出てきている。完全に囲まれた。
💙「阿部ちゃん!」
💚「翔太、ダメだ! これ、爆発する!」
💙「くっそ!」
近づいてきたけれど、一定の距離から動けなくなった渡辺はその矛先を、泡を出している男へ向けた。花びらを宙に舞わせ、一斉に泡使いの男に向かわせる。
けれど気付いた時には、花びらは全く別の方に向かって、壁にぶつかっていた。
💙「え……?」
💚「なに、今の……」
💙「わかんねえ。俺、あいつに向かって放ったはずなのに」
スッと、突如現れた手が渡辺の手首を掴む。ハッして見れば、いつの間にかそこに、LOTの一人が立っている。
それは泡使いではない。最後の一人だ。
💙「放せっ!」
💚「翔太!!」
阿部の目が碧色に輝き、泡の隙間を縫うように細く電撃を放つが、気付くと電撃は地面にぶつかって消えている。
💚「なん、で……うわっ!」
周囲に浮かんでいた泡が一気に阿部に収束したかと思うと、阿部の体は巨大な泡に閉じ込められていた。
💙「阿部ちゃん! 阿部ちゃんを放せ、コノヤロー!」
「お静かに。あなたに危害を加えるつもりはありません。ただし、大人しく付いて来ない場合、彼が犠牲になるでしょう。我々としては、彼に利用価値はありませんから」
ドンドンと、泡を叩いて何かを叫んでいる様子の阿部。けれど壊れる気配はなく、阿部の声も聞こえない。
振り解こうとしていた手を下ろす渡辺。
「賢明な判断ですね」
男が離れると渡辺の周囲に泡が浮かび、それらが合わさると渡辺の体も泡の中に閉じ込められた。
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