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第14話:演じる理由
《マスクコア領域》の奥深く。
ユイナの手の中には、光を帯びた《記憶の仮面:シン》があった。
それは彼女の“過去”だけではない。
全ての仮面に刻まれた、“最初の記憶”と繋がる鍵でもあった。
彼女がその仮面を装着した瞬間、空間が反転する。
──記憶領域、再生。
視界に現れたのは、巨大な劇場型フィールド。
左右には観客のように浮遊する無数の仮面。
中央の舞台には、白と黒の古風なコートを羽織った人物が一人、立っていた。
男か女かさえも曖昧。
仮面は陶器のように滑らかで、左右にひとすじの割れ目が入っていた。
彼の名は、アトラ。
人類で最初に仮面をかぶり、“演じる”という概念を世界に拡散させた存在――その記憶の残像だった。
「ようこそ、私の舞台へ。君が“願いに届こうとする者”か」
その声には演技と真実が混ざっていた。
ユイナは問い返す。
「……あなたは、なぜ仮面をかぶったの?」
アトラは笑い、手を広げる。
すると周囲の舞台が変形し、ユイナの姿がいくつも浮かび上がった。
笑うユイナ。怒るユイナ。怯えるユイナ。無表情のユイナ。
「人は、生きるために顔を選ぶ。
嫌われないために、拒絶されないために、あるいは、期待されるために」
彼の言葉とともに、浮かんだ“仮面ユイナ”たちが攻撃を仕掛けてくる。
1体目、【感情抑制型】――目を伏せて、静かにナイフを構える。
2体目、【陽気操作型】――笑顔で爆風を撒くピエロ風マスク。
3体目、【怒り転写型】――感情を弾丸にして撃ち込んでくる。
ユイナはサイトスラストを発動。
視覚で“感情圧”を読み取り、攻撃の意図を解読。
戦術マスクを“記憶の仮面:シン”にチェンジ。
両腕に青い光の回路が展開され、
敵の“感情”を読み取って対になる“逆感情”を流し込む。
ナイフを持った自分には“許し”を、
ピエロには“痛み”を、
怒りの仮面には“沈黙”を。
ユイナの攻撃は、“感情の調律”そのものだった。
舞台が砕け、残像が霧のように消えていく。
最後にアトラが歩み寄り、言葉を落とす。
「仮面は、弱さの象徴じゃない。
それは、“なりたい自分”になろうとした証なんだよ」
「……じゃあ、演じることは間違いじゃない?」
「間違いではない。だが――本当の願いに触れるには、“演じた自分も受け入れた先”へ行かねばならない」
ユイナの瞳が光る。
静かに頷き、舞台の中心に残された“仮面の書庫”へと歩を進める。
仮面は、人を隠すものではない。
人が“なろうとしたもの”の痕跡だった。