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16 - 第14話:演じる理由

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2025年05月18日

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第14話:演じる理由
《マスクコア領域》の奥深く。

ユイナの手の中には、光を帯びた《記憶の仮面:シン》があった。


それは彼女の“過去”だけではない。

全ての仮面に刻まれた、“最初の記憶”と繋がる鍵でもあった。


彼女がその仮面を装着した瞬間、空間が反転する。


──記憶領域、再生。


視界に現れたのは、巨大な劇場型フィールド。

左右には観客のように浮遊する無数の仮面。

中央の舞台には、白と黒の古風なコートを羽織った人物が一人、立っていた。


男か女かさえも曖昧。

仮面は陶器のように滑らかで、左右にひとすじの割れ目が入っていた。


彼の名は、アトラ。

人類で最初に仮面をかぶり、“演じる”という概念を世界に拡散させた存在――その記憶の残像だった。


「ようこそ、私の舞台へ。君が“願いに届こうとする者”か」


その声には演技と真実が混ざっていた。


ユイナは問い返す。


「……あなたは、なぜ仮面をかぶったの?」


アトラは笑い、手を広げる。

すると周囲の舞台が変形し、ユイナの姿がいくつも浮かび上がった。


笑うユイナ。怒るユイナ。怯えるユイナ。無表情のユイナ。


「人は、生きるために顔を選ぶ。

嫌われないために、拒絶されないために、あるいは、期待されるために」


彼の言葉とともに、浮かんだ“仮面ユイナ”たちが攻撃を仕掛けてくる。


1体目、【感情抑制型】――目を伏せて、静かにナイフを構える。

2体目、【陽気操作型】――笑顔で爆風を撒くピエロ風マスク。

3体目、【怒り転写型】――感情を弾丸にして撃ち込んでくる。


ユイナはサイトスラストを発動。

視覚で“感情圧”を読み取り、攻撃の意図を解読。

戦術マスクを“記憶の仮面:シン”にチェンジ。


両腕に青い光の回路が展開され、

敵の“感情”を読み取って対になる“逆感情”を流し込む。


ナイフを持った自分には“許し”を、

ピエロには“痛み”を、

怒りの仮面には“沈黙”を。


ユイナの攻撃は、“感情の調律”そのものだった。


舞台が砕け、残像が霧のように消えていく。

最後にアトラが歩み寄り、言葉を落とす。


「仮面は、弱さの象徴じゃない。

それは、“なりたい自分”になろうとした証なんだよ」


「……じゃあ、演じることは間違いじゃない?」


「間違いではない。だが――本当の願いに触れるには、“演じた自分も受け入れた先”へ行かねばならない」


ユイナの瞳が光る。

静かに頷き、舞台の中心に残された“仮面の書庫”へと歩を進める。


仮面は、人を隠すものではない。

人が“なろうとしたもの”の痕跡だった。

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