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Side青
「ねえほんとに大丈夫? さすがに2人一緒にはちょっと心配かけちゃうって。だって共倒れかと思われるじゃん」
さっきジェシーの家に着いて、半強制的にベッドに寝かせたものの全然口が閉じない。
いつもは明るい言葉ばかり出てくる口が、今日は暗い言葉を発している。
「もう言っちゃったんだからどうにもできねえよ。それに、別に一緒でもいいだろ。うつるわけでもないし」
実際、いつか流行った感染症のときは一緒にダウンしてたんだけど。
「そんな喋れるんだったら帰るよ。俺、個人の仕事あるから」
鞄を持って立ち上がるが、背後からジェシーのか細い声が聞こえた。
「樹、もうちょっといて…」
面食らって振り返る。彼は寂しそうにこっちを見ている。
俺はため息をつきながらも、普段見られないそういうところに少しだけ嬉しくなってしまう。
「しょうがねえなぁ…」
掛け布団を整えてからベッドのふちに座る。と、ある違和感に気づいた。
「てかお前、顔赤くね?」
額に手をやってみると、案の定熱かった。
「うわお前熱あるべ。薬どこ?」
かばんに痛み止めと一緒に入ってる、と言われて部屋を出る。
キッチンでコップに水を注いで戻ると、大人しく飲んでくれた。
「どうせ俺より高地がいいんだと思ってたけど、呼ばなくていいの?」
「だって」とジェシーは言う。
「こーちだったらもっと冷たいもん。たまに優しいけどさ、『病気だからって特別扱いしない』って言うし」
でもそれは、彼自身が思っていることだ。病気のことを俺らに伝えたそのときに、「普段通りにしてほしい」と言ってきた。
「樹はいつもの優しさだから」
俺は笑みをこぼす。
「そっか」
その言葉に安心した。本当は、クローン病と言われてからのジェシーとの接しかたに不安を持っていた。いつも通りのほうが彼にとってはいいのかもしれないけど、こっちとしては心配でたまらない。
だから、ジェシーが前に進もうとすると止めてしまうんだ。
だってそのまま行かせていたら、きっと壊れちゃう。
確かに今日は少し強引だった。だけどジェシーをどうにか俺の心の中と同一人物にするために必要なことだ。
あの底抜けに明るくて元気で、ボケが大好きなジェシーと。
「俺…お前のギャグにツッコミたいんだよ。慎太郎とは一味違う笑いを見たい。6人で笑い合いたい」
「…今でも笑ってるけどね」
HAHA、と口角を上げてみせる。
「違う……。気づいてないかもだけど、ジェシーが寝てる間に俺ら全然会話しなくなったんだよ。もちろん気遣ってっていうのもあるけど、いつもの雰囲気じゃない。なんか、俺…耐えられない」
「樹…」
「このまま6人が離れていきそうで…」
思わずゆがんだ表情を見てか、
「そんなの俺が許さない」
肩に手が置かれる。
「それ、俺のせいだって言ったらたぶん樹怒るからやめとく。だけど俺、頑張るから。どうすればいいか自分で探す。だから…」
一呼吸置いて、声がした。
「付いてきてくれないか」
思いがけず力強い声で、俺は顔を上げた。
「こんな俺でも一緒にいたい。そのために、みんなもずっとそばにいてほしいんだ」
あのときと同じように、心が強く呼び止められた気がした。
「当たり前だろ。俺らはずっと、お前の味方だから」
そばにいる以外の選択肢なんてない……。もっと言いたいことはあったけど、それは微笑みに変える。
「じゃあな、ゆっくり休めよ」
そう残して部屋を出る。その直前に振り返ると、ニコッと笑ったジェシーと目が合った。それは飽きるほど見慣れた笑みだった。
なぁジェシー。
たまにはゆっくりしたっていいじゃないか。
ずっと俺らの先頭に立ってくれてるけど、息を抜いて横並びで、肩に手を預けて。
夢を追いかけ続けるのも一人じゃ無理だから。
そしてまた、太陽みたいな笑みで俺らを照らしてほしい。
空が晴れるまで、ちょっとだけ。
終わり