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その夜、あんたは宿じゃなく、俺の家に泊まることになった。と言っても、俺の家は村はずれの古い屋敷や。
広すぎる廊下、雨の染みた天井、風が吹けばどこからともなく獣の遠吠えが聞こえる。
「……ここ、ちょっと怖いですね。」
『ああ。俺も、子どもの頃は嫌いやった。』
ちゃぶ台に湯呑を置き、俺は少し迷ってから話し始めた。
『この家元は、代々“化けオオカミ”の血を引いとる。月が満ちるたびに、その血が暴れて……姿が変わってまうんや。』
あんたは黙って聞いてた。
『俺の親も、そのまた親も……皆そうや。でも、最後は呪いに耐えられんようになって……自分で命を絶った。』
火鉢の火がぱちぱちと鳴る。
俺は、あんたがきっと怖がって去るやろと思った。
でもあんたは、ゆっくり俺の前に座り直した。
「それでも……私は、あなたの話をもっと聞きたい」
月明かりに照らされたその顔は、不思議なくらい穏やかやった。
胸の奥がじんわり熱くなる。
人間でいられる時間が短い俺にとって、その言葉は危険すぎる。
けど……あんたの手の温もりは、呪いの冷たさを少しだけ溶かしてくれた。
その夜、外ではオオカミが長く遠吠えを上げていた。
まるで、俺の心の奥を代弁するみたいに。