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遮光器土偶|(のようなやじろべえ?)が向かった先は、学校の正面玄関、車回しに植わるソテツのすぐそばだった。
『魔力の発生源を確認』
そこでピタリと動きを止める土偶。
「ここを掘れってこと?」
僕が口にすると、井口先生は、
「だな」
「確かにここから魔力が出てますね」
「そうね」
と真帆もアリスさんも、それぞれ手にした魔力磁石で確認する。
そこでふと真帆は「あ、だからか」と小さく口にして、僕の方に顔を向けた。
「昨日、なっちゃんの魔力のあとを追っている時に、この車回しの周囲をくるくるまわったじゃないですか」
「……あぁ、そう言えば。なんでこの辺りをずっとうろうろしてんだろうとは思ったけど」
「あれ、これが原因ですよ、きっと。ここに埋まってるなっちゃんのひいお爺さんの腕の魔力と、なっちゃんの残した魔力の軌跡が混じって一瞬どこを指していいかわからなくなっていたんだと思います、この磁石」
「あ、なるほど」
と僕は納得して頷いた。
ってことは、ある意味最初から場所は判っていたようなもんだったのか。
……まぁ、あの時点ではまだ魔術書の持ち主が榎先輩で、ひいお爺さんの腕を探しているってことを、僕らは知らなかったわけだけれども。
「それで、どうします?」
と僕は井口先生に顔を向けて、
「さすがにここ掘ったら拙くないです?」
「拙いね」
先生も当たり前のように頷いて、
「さすがにここはなぁ。バレたら何言われるか判らんし、俺の立場もやばいかもな」
「いいじゃないですか」
とすかさず真帆が口を挟み、
「ぱっと掘って埋めちゃえばバレませんって!」
「いやいや、土の色が変わったらさすがに変に思われるだろう。ただでさえこの一週間、楸が上級生を叩きのめしたり、牧田に忘れ薬を盛ったり、榎がグラウンドに魔法陣なんか描いたり、火事騒ぎ起こしたり、色々やってんだから。これ以上事後処理すんのも面倒なんだよ」
「私は何も困りませんけど?」
あっけらかんと言い放つ真帆に、
「お前のことはどうでもいい」
先生ははっきりと言い切った。
ちっと舌打ちする真帆を無視して考え込む先生。
それを見て、「あのぅ」とアリスさんが手を挙げた。
「要は、地面を元の状態に戻せればいいんですよね?」
「まぁ、そうですね」
「でしたら、私の修復魔法でどうにかなると思います、掘り起こした土だけを対象にして魔法を使えば、恐らく何の問題もないんじゃないでしょうか」
「そうか、いいですね、その案」
と井口先生は頷いて、
「あとは、掘っている間、誰にも見られないようにできればベストか。今日も部活動やらで来てる生徒や教師、多いからなぁ」
さすがにこんな目立つところの土を掘り起こしてたら、何しているのか怪しまれるだろう。
すると今度は真帆が手を挙げて、
「あ、私、良い道具持ってますよ!」
言ってポケットからチェーンのついた小さな懐中時計を取り出し、
「これ、人払いをしてくれる懐中時計です!」
と掲げて見せた。
「ほう、良いじゃないか。で、有効時間は?」
「……長くて三十分くらいまでなら」
「続けて使えるのか?」
「……予備の虹を持ってません」
「楾さんの予備はさっきこの土偶に使っちまったからなぁ。今から虹を調達しに行くか、でなければ日を改めるか……」
「え~! そんなの私、待てません!」
「いや、それは楸が決めることじゃないだろ」
「いっそ魔法使って一気に土を掘り起こして、ぱっと埋めちゃえばいいんじゃないです?」
と口にしたのは榎先輩だった。
榎先輩は土偶に顔を向けると、
「ここから深さはどのくらい?」
『およそ3メートル地下』
即答する土偶。
「できませんか?」
榎先輩に訊ねられて、井口先生は「う~ん」と考えた後、
「――まぁ、やってみるか」
「やったー!」
何故か大喜びしたのは、真帆だった。