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披露宴会場の高砂に二人並んで座ると、その豪勢な雰囲気とお客様の多さに改めて緊張が込み上げた。
やはり貴仁さんが、あのKOOGAのトップだということを思い知らされる。
テーブルに着く顔ぶれの中には、メディアなどで見知った方たちもいて、企業としての巨大さを目の当たりにする思いだった。
……こんなに大きな会社の彼と、私が結婚をしてもいいのかな……。
そう今さらながらに感じ、胸がドキドキと高ぶるのを抑えられないでいると、
「……私が共にいるから」
そんな胸の内が伝わったのか、先ほどの囁きと同じ言葉がかけられて、客席側からは見えない陰で、ひっそりと手が握られた。
感じる手の温もりから、少しずつ落ち着きを取り戻すと、気持ちを新たに二人で歩んでいく誓いを、ひしひしと噛みしめた。
菜子さんを始め、列席の方々からの祝辞が進み、やがてお父さんの番になった。
「次は、ご新婦様のお父様から、はなむけのメッセージをいただきたいと思います」
司式者の方から紹介をされて、マイクの前に立った父は、既に感無量といった風で、
「……おめでとう、彩花。そして、貴仁君」
そう話すと、声を詰まらせた。
涙ぐんだ顔を片手で覆い、しばらく押し黙った後に、
「……幸せになりなさい……」
ようやく一言を口に出すと、
「私からは、それだけだから」
父はマイクの前を離れ、その短いながら想いの深いあいさつに、列席者からは割れんばかりの拍手が響き渡った──。