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スーパーを出てからの帰り道。
夕方の空気は少しだけひんやりしていて、昼間よりも静かだった。
荷物はほとんどジョンが持っている。
「重くないの」
「大丈夫です!」
即答。
(むしろ嬉しいです、とは言えないけど……)
隣を歩くジェーンは、いつもより少しだけ歩幅がゆっくりな気がした。
信号待ち。
赤い光の下で、並んで立つ。
人の流れが止まって、会話も自然と止まる。
「……ジョン」
「はい」
「なんで」
少しだけ間があって。
「そんなに頑張るの」
静かな問い。
ジョンは少し考える。
「……好きだから、ですかね」
「料理?」
「それもありますけど」
少しだけ笑う。
「こういう時間も」
「……」
ジェーンは何も言わない。
「あと」
ジョンは少しだけ視線を逸らして、
「ジェーンさんと一緒にいるの、楽しいので」
言ってしまってから固まる。
(今のアウトでは!?)
信号が青に変わる。
でも、二人とも少しだけ動かなかった。
ジェーンはゆっくり歩き出す。
「……変わってる」
小さく。
でも否定ではない。
少し歩いた先。
人通りが減る。
静かな住宅街。
「……私」
ジェーンがぽつりと口を開く。
「こういうの、あんまりしない」
「え?」
「誰かと出かけたり、とか」
足を止めずに続ける。
「必要ないと思ってた」
ジョンは何も言わず、隣を歩く。
「仕事してればいいし、それで困らないから」
淡々とした言い方。
でも——
ほんの少しだけ、柔らかい。
「……でも」
一瞬だけ言葉を選ぶように間があく。
「悪くない」
その一言。
ジョンの胸に、じんわり広がる。
「……よかったです」
素直に出た言葉だった。
その時。
荷物のバランスが少し崩れる。
「あ」
「——」
同時に手を伸ばす。
袋の持ち手に触れた、その瞬間——
指が、軽く触れる。
「……っ」
ジョンの動きが止まる。
ジェーンも、ほんの一瞬だけ止まる。
離すタイミングを失う。
(やばい……近い……)
でも、強く握るわけでもなく。
自然と——
同じ袋を、二人で持つ形になる。
「……持つ」
ジェーンが小さく言う。
「え、あ……はい……」
そのまま。
手が近い距離のまま、歩く。
沈黙。
でもさっきまでとは違う。
少しだけ、意識してしまう距離。
「……」
ジェーンは前を向いたまま。
でも、ほんの少しだけ——
歩く速度が、さらにゆっくりになる。
(合わせてくれてる……?)
ジョンは何も言えない。
ただ、その時間を壊さないように歩く。
会社が見えてくる。
自然と、手が離れる。
ほんの一瞬のことなのに、やけに長く感じた。
「……明日」
ジェーンが言う。
「はい」
「遅れないで」
「はい!!」
いつも通りの返事。
でも。
「……楽しみにしてる」
それだけ残して、ジェーンは先に歩いていく。
その背中を見ながら。
ジョンは少しだけ立ち止まる。
(これ……)
ゆっくり手を見る。
さっき触れた感覚が、まだ残っている気がする。
「……やばいな……」
小さく呟いて、少し照れたように笑った。
ゆゆゆゆ