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第1話 名前を検索する夜
夜の部屋は静かで、窓の外に動くものはない。
端末の明かりだけが、顔の輪郭を浮かせていた。
検索欄に、短い文字を打つ。
消す。
また打つ。
指が止まるたび、胸の奥が少しだけ詰まる。
画面には、すでに使われている名前が並ぶ。
見覚えのある響き。
どこかで聞いた気がする並び。
小さく息を吐き、別の綴りを試す。
今度は、使用不可の表示が出ない。
指が画面の端で止まったまま、しばらく動かない。
この名前で呼ばれる場面を、想像する。
誰かに向けて書く言葉。
返ってくる反応。
端末を持つ手に、わずかな汗がにじむ。
画面を下に送ると、価格が表示される。
数字は低く、安定している。
安い、と思う。
同時に、軽いとも思う。
指が、購入の手前で止まる。
画面の向こうには、すでに多くの履歴が眠っている気がした。
もう一度だけ、検索欄に戻る。
今度は、少しだけ音の違う名前を打つ。
結果が表示されるまでの間、
部屋の静けさが、やけに重く感じられた。
端末が、小さく震える。
その名前は、まだ誰のものでもなかった。