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(ゝω・) ねこウサギ
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決戦の夜は、もう目前だった。
マフィオソの包囲網すら逆利用し、チャンスの持つ闇市場のパイプ、人脈、資産、その全部を“起爆装置”として叩き込むことで、「The Banlands」の門を内部から吹き飛ばす計画。
成功すれば、明日。
EllernateとCaleb244は、この地獄から帰ってくる。
そして同時に――。
チャンスという男は、たぶん全部を失う。
財産も。
逃げ場も。
運が悪ければ、運営そのものに消される。
それを誰より理解しているはずなのに。
その前夜、隠れ家の寝室には、狂気みたいな熱が満ちていた。
氷点下の熱。
息を吸うたび肺が凍りそうな冷気が、暗い部屋の中を白く漂っている。
「……動かないでよ、チャンス」
低く落ちた声。
ベッドへ押し倒されていたチャンスは、喉を震わせて笑った。
薄暗いランプの下で、iTrappedの黄色い髪が乱れている。青いシャツのボタンは大きく外れ、露出した白い肌の上を、氷の王冠から溢れる冷気が煙みたいに流れていた。
その姿は、あまりにも綺麗で。
あまりにも壊れそうだった。
iTrappedはチャンスの両手首をシーツへ押しつけたまま、ゆっくりと首筋へ顔を埋める。
冷たい唇。
刺すような吐息。
そこから鎖骨へ、胸元へと、執拗なほど何度も触れていく。
まるで“自分の痕跡”を刻み込むみたいに。
「ッ……は、ぁ……」
チャンスの背筋が跳ねる。
冷たい。
痛い。
なのに脳髄が焼き切れそうなほど気持ちいい。
サングラスを外した瞳が熱っぽく細まり、口元にはいつもの歪な笑みが浮かんでいた。
「……どうした、ペテン師。今日のあんた、随分必死じゃねえか」
掠れた声で笑う。
「まるで、明日で全部終わるみたいだ」
その瞬間。
iTrappedの動きが止まった。
ほんの一瞬だけ。
けれど、イカサマの検出が得意なチャンスは、その“間”を見逃さなかった。
青い瞳が揺れている。
氷の王冠が、小さく軋む。
iTrappedは無言のままチャンスの顎を掴み、強引に顔を上向かせた。
王冠の棘が額に触れそうな距離。
吐息すら凍る近さ。
(……そうだ)
iTrappedは心の奥で、自分に言い聞かせる。
(明日になれば、この男は終わる。僕がそう仕組んだ)
チャンスの資産。
コネクション。
命懸けで築いた裏社会のルート。
全部、Banlandsを壊すために使う。
EllernateとCaleb244を取り戻すためなら、このギャンブラーが壊れようと構わない。
構わない、はずだった。
なのに。
チャンスへ触れている指先が、微かに震えている。
これは手向けだ。
最後まで使い切った“完璧な駒”への報酬。
壊れる前の玩具を、最後に綺麗に磨き上げているだけ。
そう思おうとしているのに。
胸の奥が、嫌になるほど騒がしかった。
――明日になったら。
この男は、自分を見なくなる。
自分の隣には、EllernateとCaleb244が戻る。
その時。
チャンスの瞳から、自分という存在が完全に消える。
その想像だけで、喉の奥が凍るほど苦しかった。
(……嫌だ)
初めて生まれた感情だった。
自分でも名前をつけられないほど歪で、醜くて、独占欲に満ちた感情。
だからiTrappedは、それを押し潰すように、さらに深くチャンスへ覆い被さった。
「静かにして」
囁きが落ちる。
「君はただ、僕のゲームの中で、最高の快楽に溺れてればいいんだよ」
そして唇を塞ぐ。
息を奪うみたいなキスだった。
冷たくて。
乱暴で。
なのに、壊れそうなほど必死だった。
チャンスは笑う。
ああ、と。
やっぱり。
この男は、最後まで嘘が下手だ。
この熱は、別れの前の熱だ。
この執着は、“手放すため”の執着だ。
全部わかる。
全部、見抜いている。
それでも。
それでも、この瞬間がたまらなく愛しかった。
(ハハ……最高だ)
自分を破滅させる男が。
自分を使い潰そうとしている詐欺師が。
壊れる寸前みたいな顔で、自分に触れている。
こんなギャンブル、もう二度とない。
倍率は最悪。
結末も破滅。
なのに、脳が痺れるほど甘美だった。
「……いいぜ、iTrapped」
チャンスは凍えた腕を伸ばし、その腰を強く抱き寄せる。
骨が軋むほど。
逃がさないと言うみたいに。
「Banlandsの門でも地獄でも、好きに開けろよ」
サングラスのない瞳が、真っ直ぐiTrappedを見上げる。
「その代わり――最後まで、俺から目ぇ逸らすな」
その言葉に。
iTrappedの青い瞳が、ほんの一瞬だけ壊れそうに揺れた。
友情なんてない。
救済もない。
あるのは、互いを利用し合うためだけの関係。
それでも二人は、明日という奈落の縁で、最後の全財産みたいに互いの体温を擦り合わせ続ける。
破滅の秒読みが始まる夜。
絶対零度のベッドの上で、二人の呼吸だけが、静かに、狂ったみたいに熱を持っていた。