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ほわさんほんとに将来小説家とかになりそう…すごい面白い
時計の数字を意識すればもう遅い時間になっていた。一日はもうとっくに終わっており、間髪入れずに翌日が始まっている。それでもまだ、受け入れることは出来なかった。
(睡眠薬を服用しろ。でないと……)
自分と話す癖が離れなくなったのはよくなかったと思う。こんなのノイローゼに進むだけだ。
(機械的な眠りではなく、もっと鮮やかな眠りが欲しい)
寝ることを諦めた。そもそも夜を手放すには惜しすぎる。駄目だというのは分かっているし、頭痛も酷くなるばかりであるのも分かっている。
時間はけして誰のものでもないというのに、どうしても自分のものにしてしまいたい。無い物ねだりをするのは簡単である。
(時間を消したいのなら時計をぶち壊せ)
手を見ると大きいような小さいような気がする。色でちゃんと血が通っているのが見えて嫌になる。
「ねえ、僕は将来何をすればいいんだろう」
「知りませんよそのくらい、好きにすればいいじゃないですか」
実際記憶に残っているのはこういう会話だけで、彼の言うような会話はしていない。彼があることにお熱なのは薄々察していたから素っ気ない返しをしたが、お気に召さなかったみたいだ。
「じゃ医者はどうです?貴方が目指していることに近しいことが出来るのでは?」
ここがターニングポイントであり、後に彼と再開することになる。結局彼は医者になっていなかったけれど。
僕の性格等は少々、子供のままで止まっている。理由は探す気にはなれないけど。
小さな問題。気にすることでもない程度のもの。
今まで入眠を睡眠薬に頼っていたからか、寝方が分からない。瞼を閉じてじっと待つだけでは退屈すぎる。かといって何か自分に語りかけていると思考が完結せずに忘れてしまうのを恐れ逆に寝ることができない。もし寝れたとしても、それは短く浅いものだろう。自分の体質が鬱陶しかった。自然に眠気が押し寄せてくるのを待っていると毎回朝に寝ることになる。
羊が一匹柵を飛び越えた。後ろで待機していた羊もすぐさま柵を飛ぶ。これで二匹目だ。
(寝れないときに羊を数えるのはsheepとsleepの発音が似てるからだ)
英語はもう古い言語だから日常的には使わない。主に使われているのはそれから派生した言葉だけであり、英語を完璧に話せる生物なんて相当長寿じゃないと厳しいだろう。それに関連した日本語も難解だった。はるか昔の文学を読むために必死に覚えたけれども、今思い出せるのは断片的である。
あれはどんな話だったろうか。電気羊から夢見たのか、電気羊の夢を見たのか、電気羊が夢を見たのか。
羊は夢を見るが、それは誰かに殺されて終わる。その様子を夢に見た羊もいつかは殺される。その様子を夢に見た羊も殺される。
夢を見る羊が死んだ夢を見る羊が死んだ夢を見る羊が死んだ夢を見る羊が死んだ夢を見る。
つまりはマトリョーシカである。
同じことが持続的に起こり、それは実質機械化されているものであり、その運命を避けることはできない。それは終わることなく、世界が終わったあとも羊と夢と死がある限り続く。深淵を覗いているのと同じだ。
ニーチェは創作物の中でも実在している。この世界での創作物なのだから当たり前ではあるが。
あの創作物の中では僕のような種族は当たり前に生活していないし、そもそも魔法も能力も錬金術もない。あんな不便な世界ではどう生きているのだろうか。
重い瞼を閉じて、平衡感覚が徐々に狂っていくのを感じる。毎度意識がそのあたりで途切れているため、どうやって夢の世界に入るのかは不明である。