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「……ねえ」
通話ボタンを押す指が、冷たく汗ばんでいた。
何度も呼び出し音を聞かされた末、ようやく彼が出た。
『……もしもし?こんな時間にどうしたの』
いつもより低い声。眠そうなふりをしている。
「ねえ……昨日、どこにいたの?」
一拍の沈黙。
電話の向こうで、何かを探るような気配がした。
『……仕事。言ったよね』
「嘘つかないでよ!」
思わず声が裏返った。
涙が頬を伝い、スマホに落ちる。
「見たんだよ……あの写真……」
『写真?』
彼は鼻で笑った。
『……ああ。あれか。』
わたしの心臓が冷たく沈んだ。
やっぱり、知っている。
「……“あれ”って、なに?」
『ただの友達だよ。飲み会で隣にいただけ。被害妄想しすぎ。
彼の声は冷めきっていて、慰める気配すらなかった。
「でも、肩に触れてた……笑ってた……」
『女友達に肩くらい貸すでしょ。俺、そういうの気にしないタイプだから。』
ぐらぐらと、頭が揺れる。
“気にしないタイプ”――それはつまり、わたし以外の誰にでも、同じ笑顔を向けられるということ?
「……わたしのこと、好きなんだよね?」
声が震える。縋るように問いかける。
短い沈黙。
その間に、何百もの不安が胸を駆け巡った。
『……好きだよ』
言葉だけは、ちゃんと返ってきた。
だけど、その声に熱はなかった。
「ほんとに……?」
『……もう寝ろ。明日も仕事だから。』
ブツリと通話が切れる。
取り残されたわたしの耳には、心臓の音だけが残った。
スマホの画面が暗転する直前、通知がひとつ。
――「彼の言葉、信じるの?」
例のアカウントからだった。
まるで、わたしの会話をずっと盗み聞きしていたかのように。