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第5話 「力の代償」
🚀 シーン1:フラクタルの訓練
青白い光がぼんやりと辺りを照らす。
然(ぜん)は、廃ビルの屋上で深く息を吸った。
「いいか、ゼイン。お前の《オーバーライド》は強力な能力だが、まだ使いこなせてねぇ」
ナヴィスが腕を組みながら言う。
風に揺れるくせ毛の黒髪と、鮮やかな青い瞳が夜の闇に浮かび上がる。
彼は黒のジャケットの袖をまくり、腕に刻まれた碧色の模様をちらりと見せた。
「だから、今日は徹底的に訓練するぞ」
「……やれって言うなら、やるさ」
然は静かに構えた。
《オーバーライド》——他者のフラクタルを一時的に書き換える力。
使い方次第では、ヴェール・バインドとの戦いでも大きな武器になるはずだった。
ナヴィスは不敵に笑い、足元の地面を軽く蹴った。
「よし、ならまずはオレの攻撃を防げるか試してみろ」
次の瞬間、ナヴィスの腕が青白く光り、衝撃波のようなエネルギーが放たれた。
「くっ……!」
然は反射的に左腕を掲げ、意識を集中させた。
腕の碧色の模様が発光し、ナヴィスのフラクタルを一瞬だけ改変する。
「《オーバーライド》!」
ナヴィスのエネルギーが弾け、勢いを失った。
「……おっ、いい感じじゃねぇか」
ナヴィスは満足そうに腕を回した。
「だが、まだまだだな」
言葉と同時に、今度は彼の手のひらから重力を操るような波動が発せられる。
「……っ!」
然はもう一度《オーバーライド》を発動しようとしたが——
「——っ!?」
突然、頭に鋭い痛みが走った。
「ぐっ……!!」
然は片膝をつき、息を荒げた。
「おい、大丈夫か?」
ナヴィスが近寄るが、然は自分の腕を見て愕然とした。
腕に刻まれた碧色の模様が、一瞬だけ薄れかけていた。
「……今の、何だ……?」
「フラクタルの使いすぎだろ」
ナヴィスは溜息をつきながら、然の背中を軽く叩いた。
「お前の能力は強力だけど、寿命の消費がハンパじゃねぇ。連発すればその分、命が削れるんだよ」
「……つまり、俺は無闇に使えねぇってことか」
然は歯を食いしばり、拳を握った。
「そういうこった。だからこそ、使いどころが重要なんだよ」
ナヴィスの言葉に然はゆっくりと頷いた。
🚀 シーン2:ヴェール・バインドの影
訓練を終えた二人は、廃ビルの屋上から街を見下ろしていた。
遠くには、無数のネオンと、高層ビル群が光を放っている。
「……ヴェール・バインド、いつ動くと思う?」
然が静かに尋ねると、ナヴィスは苦笑した。
「もう動いてるさ。ほら」
ナヴィスが指さした先には、黒いヘリが空を旋回していた。
「……監視されてるってことか」
「まぁな」
ナヴィスは軽く肩をすくめた。
「だが、アイツらはまだ手を出してこない。なぜかわかるか?」
然はしばらく考え、ハッとした。
「……俺を“泳がせてる”ってことか?」
「正解」
ナヴィスの青い瞳が夜の闇に光った。
「お前がどこに向かうのか、誰と関わるのか——アイツらはそれを見てるんだよ」
「……なら、どうすればいい?」
ナヴィスは静かに言った。
「簡単な話さ。先にこちらから仕掛ける」
然の胸に、わずかに緊張が走る。
「そろそろ、本格的に動くぞ、ゼイン」
然は無意識に拳を握りしめた。
——まだ、“ゼイン”にはなっていない。
だが、戦いの幕は、もう開かれようとしていた。