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『私の望みは、円満な離婚です。私を自由にしてください。今から代理人を向かわせますから、離婚届にサインと印鑑をくださったらそれで結構です。そうして下さったら秘密も暴露しませんし、慰謝料も要りません』
「えっ…それでいいのか!?」
思った以上に易しい離婚条件に思わず前のめりになる。
『はい。受け取ったらすぐに離婚届けを出しますから。それで金輪際、あなたと私は赤の他人です。私に接触したら、あなたの秘密を公にする覚悟でいることを忘れないでください。その代わり、離婚は今すぐです。きちんと書類を渡して下さるなら、慰謝料は請求しません。書いていただけないなら裁判します』
「わかった。書く! 約束しよう!」
裁判となれば示談を持ち掛けなければいけないと思っていた矢先、なぜだかわからないが、慰謝料を請求しないと相手が言ってきたのだ!
美晴の気が変わらないうちに離婚しようと思えた。
幹雄は美晴のペースに乗せられ、離婚届を書くと約束した。
『よろしくお願いします。では、すぐに伺います』
通話が切られた。
「クソっ!! 美晴のくせに生意気な!!」
僕の下で奴隷のように働くのを生きがいにしていたくせに――そう思ったが、実際にその奴隷がいないと生活がまったく快適でないことに気がついた。
美晴はいつも笑顔で自分を迎えてくれ、ねぎらいの言葉をかけ、好物を作って待っていてくれた。どんなに遅い時間でも、どんなに自分が彼女を虐げても、決して変わることなく――
この時、幹雄は初めて美晴を手放したことを後悔した。
しかし後悔しても後の祭りだ。彼女はもう戻らない。
浮気のひとつやふたつ、男の甲斐性でもあるのに、と時代錯誤な言い分を頭に並べていると、インターフォンが鳴った。メイドが対応し、幹雄様にお客様です、と告げた。
(ほんとうにすぐ来たな…)
来客は二人組の女性だというのでぶつぶつ文句を言いながら玄関に行くと、目を見張るような青い色の目、アッシュブラウンの髪色をしたボリュームのある巻き髪が妖艶さを誘っており、目元のなきぼくろも魅力的で、その鋭い瞳に睨まれたら土下座してしまいそうになる女王気質の持ち主の女性が立っていた。濃い目の化粧がきっちりと土台のよさそうな顔に乗っており、ダークローズのルージュもよく似合っている。
彼女のとなりにもうひとり女性がいた。
頭からフードとマスクを被り、前髪を黒目の辺りで切りそろえている、見るからに怪しい占い師のような女性だった。厚塗りのファンデーションで誤魔化しているようだが、露出している部分の吹き出物がすごい。隠しきれない醜悪さがあった。正直言って、巻き髪美女の引き立て役にしか思えない。幹雄は思わず目を反らした。
「離婚届を受け取りに参りました」
巻き髪の女性がいくら美人でも、関わったら破滅しそうな匂いがする。それに、美晴と繋がっている女性と関係を結んでこれ以上波風を立たせるのは愚の骨頂だ。幹雄は離婚届を素直に渡した。受け取ったのは、気持ち悪い方の女性だ。彼女は幹雄の手を撫でまわすように触ろうとしたので、さっと手を引っ込めた。離婚届はこれで彼女たちの手に渡った。