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まろ
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まるちゃ
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#初体験
小学生ぐらいのとき、なぜかピンポンダッシュって流行りませんでしたか?
いや、本来はそんなもの流行っちゃいけないんでしょうけどね。一体誰が言い出したのか、それとも先輩や兄姉たちから教わる通過儀礼のようなものなのか、ある日突然「ピンポンダッシュしよーぜ!」なんて声が上がってくるんですよ。
私の学校でも、一時期そんなものが流行りました。確か高学年になるかならないかくらいの頃だったかな。子どもの時分はそんな他人の迷惑より、自己の好奇心や楽しみを優先するもので、家主に見つかれば説教。逃げ切れば勝ちと、ゲーム感覚で成していたような気がします。
しかもそんな遊びを提案してきた友人たちとは帰宅経路が同じだったので、なんとかその場に居合わせないよう頑張っていました。
なんていうんですかね。学校から近い場所にピンポンダッシュするのに最適な通りがあったんです。『七軒通り』と呼ばれる、それこそ昔は七軒だけしかなかったような通りなんですけどね。
インターフォンが全て玄関外、要は通りに面したところにあったので、イタズラ側はそれこそ走りながら全てを押しまくって逃げるわけです。
「今日もピンポンして帰ろうよ」
クラスメイトの八坂くんは、良く言えばヤンチャ。悪くいえば問題児の男の子でした。彼は向こう見ずな性格で、足だけはとにかく速くて、子ども特有のかっこいいところを見せようとしてトチるような、まあ可愛いといえば可愛い男の子でした。
「あー、俺パス」
「僕もー」
「てか、そもそも朝のホームルームで先生から注意受けたばっかじゃん。まじ無理ぃ」
案の定近隣から学校へ苦情が届き、朝から全校集会で注意を受けたばかりでした。それでも八坂くんは諦めきれない様子で、私たちに一つの提案をしてきました。
「じゃあそれはやんねえよ。そんかわり、あの通りに凄えボロい家あんじゃん。その家にピンポンしてこよーぜ」
「だから、ピンポンダッシュはしないってば」
「そうじゃなくて、普通にピンポンすんの。どんなのが住んでるか見てみたいじゃん」
一言で言うなら、それは凄く悪趣味というべきか、かといって大人になってもそんな輩はいましたよね。皆一様に嫌そうな顔をして八坂くんを見ていたので、私はつい「家主が出てきたらどうするの?」と聞いてしまいました。
「そしたら、ここって誰某さんちで合ってますか? クラスメイトのプリント届けにきたんですけどって言えばいい」
そう、事もなげにいいました。そういうとこだけは頭が働くなあと思わないでもありませんでしたが、それに付き合わされる方はたまったもんじゃありません。
結局それに巻き込まれたのは、通学路が同じの私ともう一人の男の子だけでした。私の場合はほぼ道連れでしたね。
「じゃあ、押すからな」
「なんでもいいから、さっさと帰ろうぜ」
今まで通学経路として使っていたにも関わらず、私はその家を初めてまじまじと見ました。周りの家が小綺麗なせいもあってか、外壁の剥がれや磨りガラスのちょっとしたヒビ、控えめに締め切られた雨戸のなにもかもがボロさに拍車をかけているなあ、と少しだけ失礼なことを思ったものです。
「出ないね」
八坂くんがインターフォンを押してもなかなか応答がないので、これは留守かもしれないと思い始めた頃。
ザザ……、ザ、ザァアアア────
と、インターフォンからひどく耳障りなノイズが流れてきました。私たちは一様に体をびくりと震わせましたが、それは家主がボタンを押した瞬間に発するノイズが、やたらと長引いている、といった印象でした。
『────、────て』
ザザ……、
『───けて、───よ』
ザザ、ザ……、
『────けてよ』
ザザ、ザ、ザァアアア────
少しずつ鮮明になっていく言葉と、あたりのねっとりとした空気。嫌な予感がしたのは私だけではなかったと思います。魅了されたようにインターフォンを凝視する八坂くんをよそに、私はもう一刻も早く帰りたくて、思わず数歩後退したときでした。
『───開けてよ、八坂くん!!!!』
突然耳障りなノイズが一切なくなり、驚く程クリアになった声が私たちの脳を突き破りました。私ともう一人が反射的に八坂くんの方へ顔を向けると、ガリガリ音とともに通話は切られ、後には呆然と立ち尽くす三人が残されていました。
「や、八坂くん……」
「なんだよ!」
「この家って、最初からこんなにボロかった……?」
私たちは彼の言っている意図が分からずに、ただ彼が指さす方へ視線を向けると、その言わんとしていたことの意味を知り愕然としました。
そこには、壁に貼られた入居者募集の看板に、釘の打たれた玄関扉、磨りガラスにはヒビどころか、それを隠すかのように貼られたガムテープと、何年も開けられていなさそうな雨戸。先程見た家とは違い、明らかに人が住んでいるとは言えませんでした。
「だ、だってさっきは呼び鈴鳴ったじゃんか!!」
八坂くんは軽くパニックになりながら再び呼び鈴を押したものの、そもそも電気が通っていないのか、インターフォンはうんともすんとも言いませんでした。ただ、ボタンを押すカチカチという音が虚しく聞こえ、それが一層焦燥感を掻き立てるのに一役買っているようでした。
「き、きっと、さっきはどっかの家のやつと聞き違えたんだよ! じゃないと───」
ザザ……、ザ、、ザァアアア────
『─────あはっ』
一瞬にして全身が総毛立ち、喉奥から掠れた空気が排出されるのと同時に、私たちは無我夢中でその場から走り去りました。私はもう吐きそうなくらい気持ちが悪かったのに、自宅で母親の顔を見るまで一度も走るスピードを緩めることはありませんでした。
あの後誰かの体調が悪くなったなんていうことはありませんでしたが、八坂くんは七軒通りを通って帰ることはなくなり、ピンポンダッシュもいつの間にかなくなっていました。
あの家はもう随分と前に更地になったようですが、そもそもあの声は一体何だったのでしょう──。
コメント
1件
ああ、これ、めちゃくちゃ怖いやつですね……。子どもの頃の「ピンポンダッシュ」遊びと、あの情報量の少ない描写——「開けてよ、八坂くん!!!!」のクリアな声と、ボロボロの空き家のギャップが巧みで、背筋がぞわりとしました。インターフォンのノイズが徐々に明瞭になる演出も、ホラー慣れしてる私でもぞわっと来ましたね。設定や伏線の貼り方が本当に上手いなあと。続きを読みたくなります。