会って伝えるのが1番だと思ったから
電話とか、メールとかでは伝えないようにしていた
ある日、先生に呼び出された
指定された教室に行くと、先生が1人、座っていた
「どう?なにか、いいのが見つかった?」
一瞬、なんのことか分からなかった
でも、先生の顔をみて、なんのことか理解した
「はい。見つかりました」
「そう、良かった」
安心したような、穏やかな顔に変わる
「やりたい仕事でも見つかったの?」
「はい」
「どんな仕事?」
「手話通訳士です」
そういうと、驚いたように目を見張る
「手話…?手話できるの?」
「今勉強中です」
「へぇ、すごいじゃん!頑張って、応援してる」
「ありがとうございます」
今思えば、今までこの先生を怒らせてばかりだった
だからだろう
こんな、安心したような顔になるのは
本気で、俺の事を心配してくれたんだ
あの時は、分からなくて、めんどくさいとか思っていたけど、
休み時間になる度に勉強する人の気持ちが分からなかったけど
でも、今ならわかる
やりたいって本気で思ったんだから
手を抜いてはいられない
「じゃあ、これで終わりだね」
「はい」
「頑張ってね」
「ありがとうございます」
そう言って教室を出る
今日は、ラウールに会える日だ
喫茶店に行く道を、心做しか早く進む
早く早くと心が急かしている
喫茶店のドアを開けると、いつもの席に、ラウールがいた
俺は、ラウールの所へ行き、ノートに向けられている視線の前で手を振る
パッと顔を上げたラウールは、にっこりと笑う
『オマタセ』
ラウールは首を横に振る
俺は、まだ全然手話を覚えてないので、日常会話はまだできない
スマホを出し、いつものアプリを起動させる
「俺、やりたい仕事見つかった」
そう言うと、嬉しそうな顔をする
そんな顔されると、こっちも嬉しくなる
どんな仕事?と聞かれる
それには、手話で答える
《 シュワツウヤクシ 》
すると、びっくりしたように、俺の目を見つめる
まるで、本気?と言っているようだった
「俺、ラウールと手話で話したくて手話を勉強し始めて、」
俺は、なぜ手話通訳士になりたいのか
それを、話し始めた
「でも、手話のことを色々調べてると、あ、めっちゃ楽しい!ってなって」
「これまで、進路のことで悩んでて、得意なこともない」
「でも、手話ができるようになったら、ラウールと話せるし、手話が得意だって言える」
俺が紡ぐ言葉一つ一つが文字になって現れる
「だから、これを、仕事にしたいって思った」
上手く、言葉に出来ないけど
自分なりの言葉で、伝えたい
目の前にいる、ラウールに、伝えたい
「健聴者と、聴覚障害者」
「この人たちは、手話とかでしか話せない」
スマホを指さす
「でも、手話を習得するには、時間がかかる」
「そんな人たちの、手助けをしたい」
ラウールは、優しく微笑んでくれる
包み込んでくれるように
そして、
《 ガンバレ 》
それが、嬉しかった
やっと、ラウールに伝えられた
これからは、手話をもっともっと勉強して、一日でもはやくラウールと会話ができるように
スマホなんかなくたって、会話ができるように
手ぶらでも会話ができるように
一日でも早く、手話を習得するんだ___
『はいオッケー!!』
「うわ、めっちゃ緊張する〜」
ラウールは喋らないけど、手話を間違えたらやり直しだ
俺も手話を使うので手話を間違えないように必死だ
「俺、めめの気持ち分かったかも」
突然、そんなことを言い出すラウール
まぁ、俺もそうだけど
「だてさん、ラウール、お疲れ様」
今世紀何をしても決まる男がやってきた
「めめ、こんな大変な役やってたんだね」
「まぁね」
「すごいね、めめ」
と言われると、少し照れたような顔をする
写真を撮って阿部に送りたいけど生憎、スマホは手元にない
目に焼き付けておくことにしよう
『じゃあ次のシーンの準備しまーす』
と、声がかかり、
「頑張って」
とだけ言い残して今世紀何をしても決まる男は去っていった
やっぱり今世紀何をしても決まる男は去る時もかっこいい
コメント
6件
うわぁ、好き!
まじで好きです…(((