コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ありがとうございました。」
号令が終わると、クラスメイトは各々友達のもとへと固まり、喋りだした。
自分のもとには誰も来ないことに少し溜息をつくも、そんなもんだとすぐに立て直した。
(次の時間は……音楽か。確か今日は、合唱祭の学年リハだったよな。)
楽譜を机の奥から引っ張り出していると、肩をぽんぽんと叩かれた。
「東雲。」
「よ。次、実行委員と学年委員は先に集合だってよ。」
「そっか。じゃあ、一緒に行こう。」
喧騒を背に教室を出ると、少し空気がひんやりとした。
季節の変わり目は、何度経験しても体が慣れない。
確か去年も体調を崩したな、なんて思いながら、早足で廊下を歩く。
「なあ、俺本当にこのクラス無理だわ。さっきの理科、超酷かったじゃん。」
「まあ仕方がないよ。だって櫻井先生だよ、もう舐められきってるって。」
「まあなあ。けど、あんなんほぼセクハラだろ。」
「ああ……。夕弦が『せいし』って叫んだやつね。」
あれはイントネーションからして『精子』だったし、先生が注意するのも当たり前だろう。
『生死』って言ったのに何がおかしいんですか、何か勘違いしたんですか?と煽りまくっていたのは、しょうもなさすぎて笑えてくる。
で、そこからの下ネタオンパレードは思い出したくもない。
本当に下ネタが好きな奴が多すぎて、同じ男として嫌になってしまう。
ちゃんと一線を越えたものには嫌悪感を示せる、そんな東雲が友達に居て良かったと何度も思う。
「この間の美術は片山先生泣いちゃってたじゃん。馬場先生に特別指導されたのも俺達だけだよ。」
「まあ三組、問題児だからね。」
「愛染はクラスライン入ってないから分かんないだろうけど、櫻井先生の水筒に洗剤入れようとしてんだぜ。」
「それはヤバいね。」
「佐久間は万引きしてるし、奥村は学校来ねえしよ。お前もこんなクラスに慣れるなよ。」
「……当たり前だろ。」
「三組オッケーね。じゃあ次四組移動して。」
先生の声を合図に、ぞろぞろとステージから降り始める。
(アルトはやっぱり、コーラス部分が揃ってないな。あと、ソプラノに潰され気味だから、声の大きさもアドバイスしなきゃ。)
パートリーダーらしく色々考えながら持ち場へと戻ると、ステージに織緒の姿が見えた。
と、彼の立ち位置が、テノールの場所なのに気がついた。
(そっか、もう普通の男子は声変わりが始まっていてもおかしくないのか。)
最近まで自分と同じくらいの声だったのにな、なんて考えていると、どうにも胸が苦しくなってきた。
何故僕は、女の体に生まれてしまったのだろう。
そう、僕はテノールになれない。
これは、トランス男子の僕が、学級崩壊寸前のクラスで奮闘する話だ。
気分の浮き沈みの激しい僕の日常だが、見たい人だけ見てくれると嬉しい。