コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「貴様の実験は不死者を作り出すことであろう。なら成功ではないのか?」
「ヒッヒッ。いや、のう……正確には不死の戦士よ。じゃがこやつからは人並みを下回る体力しか感じぬ。昨日はたしかもう少しマシじゃったはずよ。魔力すらの」
何を言っている? 行商人と鎧兜の男の会話は何らかの企みだと分かる。ただ、その内容が入ってこない。
「戦士としてその戦闘能力を失うようなものは論外よ。死なないだけの存在など」
「ならば、これはどうする?」
「失敗作がいつまでも存在するのも腹立たしいわい。しかしせっかくじゃし、どこまでやれば死ぬか試してみるのも面白い」
何の話をしている……⁉︎
「既に、心臓を抉って生きてるのだ。並大抵では滅ぶまい」
「そうじゃのぅ……ならとりあえず首を落としてみてくれ」
「分かった」
剣士風の男が僕のそばに寄り剣を抜くと、次の瞬間僕は首のない胴体を見ていた。その服装には見覚えがある。僕のだ。妻が選んでくれた、寝間着。ただ胸の所が縦に裂けていて夥しい血の色で染まってはいたが。
ああこれは悪い夢なんだ。
思考は途切れ意識が遠のき、消失した。
「ほっほ! 気持ち悪いものよの。まさかまさか……」
「魔力が無くなったわけではなさそうだな」
夢は終わらない。これが悪夢でもなんでもどうして、僕は、何故生きている?
「次は中から──こいつを飲ませてみるかの」
戸惑い狼狽える僕がよっぽど面白いのか、明らかにおかしい色をした液体の入ったビンを見せてくる。
「それは……まあ、しかし殺すものに何も遠慮は要らんか」
そして口にビンが押し込まれる。
焼ける。舌が口内が、のどが! 腹の奥まで!
また意識が取り戻された。じくじくと体の中で痛むような感覚が続いているけれど、まるで他人事のようにさえ感じられる。
「全てが内向きじゃのう」
「ああ、死して回復のみに注がれ続ける魔力など聞いたことがない」
「この状態で食事は出来るのかのう?」
「肉ならある。やってみるか」
「その前に、これもやっとくのもよかろう──ヒッヒッ」
動かない体では声を聞き取るのが精一杯で、それなのに会話の意味を理解出来そうにもない。行商人が僕の顔を覗き、卑しい笑みを浮かべている。
口を開けさせられるけど抵抗する力もない。舌の上に冷たい感触を覚え、勝手に飲み込んでしまう。だめなのに、きっとそれは──そこで僕はまた意識を失った。
「ほっほっほっ! これは面白い! こうして見るとどうじゃ、実験動物としては良いのかも知れんのう!」
「悪趣味なペットたが、興味深い。ふうん……っ! これでなら、どうだ!」
やがてそんな会話が聴こえてまた意識を取り戻したんだって分かり目を開いた僕は、見上げたその先に、降ってくる岩を見た。
なんで、僕は生きているのか。あれから何度殺された?
殺されたのに生きている、行商人のはずのヤツに言わせると、死なないだけの存在。なんなんだそれは。僕は死なない? こんなに苦しくて痛いのに、死なないとはなんなのか?
さっきは毒で中から爛れたはずだ。頭が潰れる音を聞いた。
手の先から肩までを順番に輪切りにされて眺めてもいた。
僕はそれで気を失ったが、目が覚めると腕はあったのだ。
背中側が冷たい。皮膚がガサガサする。地面は赤い。これは僕の血だ。とても1人のものとは思えない量ではあるけど、目覚めるたびに増えていく。
殺されるなんて経験は一生に一度だけでいいものを、何度も殺される。そして生き返る。その度に僕は死に至るだろう痛みと苦しみを繰り返している。
やめてくれ、もう。
そしてそれまであった痛みも苦しみもなくなり、嘲る声も聞こえなくなったことに気づいたのはいつだろうか。