僕はとうとう死ねたのかと、ぼんやりと思っていると次第に意識がハッキリとしてくる。
辺りを見回しても奴らは居ない。日はまだ高い。
どこかにでも行ったか。飽きたのかも知れない。奴らにとってモルモットでも最終的には不要のようでもあった。
その場に体を起こすと、周りに人気はなく周囲には肉片やら骨やらが散乱していた。
もしかしたら散々遊ばれた僕のものなのかも知れない。千切れて飛んでそのままなのかも……確かめたくはない。
脱力し、くの字に折れそのまま横倒しに倒れた。
誰も、居ない。誰も。
ぶーん……とハエの音がする。やめろ、僕は死んでいない。
いや、何回も死んだ生粋の死体ではないか。生唾を飲み込み、血の匂いを感じ、風の音を聞き、心臓の鼓動を確かめる。
生きている。
日はすっかり落ちて月明かりだけが僕とこの地獄のような光景を照らしている。
家に帰り、妻だったものだけでも埋葬したかったが、寝室に妻の姿は無かった。
惨劇の痕は確かにあり、妻が倒れていたベッドには乾いた血がしっかりとこびりついたままだ。
いつのまにか夜があけていた。寝てしまっていたようだ。この身体は睡眠もするようだ。
外に出て、昨日の凶行の現場に戻ると、そこには妻の指輪を嵌めた手首から先が落ちていた。拾って抱き抱える。
ここまで理解出来たことなど何もない。散乱した肉片に骨。複数の衣服。全く分からない。
村の外へと向かう道を行くと、あの行商人が転がっていた。
そいつはすでに絶命しており、その表情は苦悶に歪んでいた。
どう表現したものかこの感情は。ただこの死体に何かをしようともならず素通りしたその先で、今度は剣士風の男の残骸が見つかった。
こちらは鎧ごと指の先から細切れにされていったかのように、さながら落とし物のように一片一片と道が続いていた。
終点には足首を見つけたところに全身がバラバラではあれど揃っていて、しかし頭があるであろう場所は、トマトを潰したみたいになっていて、兜で隠れていた顔を知ることも無かった。
こいつらは何故死んでいる? だがそれもどうでもよかった。ここはすでに地獄なのだから、何が死んでも不思議ではない。
そして僕は落ちていた剣を拾い、自らその胸に根元まで突き刺したのだ。