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#一途
shima7a
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第58話 「新しい春」
2022年4月。
柳城高校。
桜が満開だった。
今日は入学式。
センバツ優勝から数日。
学校にはまだ優勝の余韻が残っていた。
正門には横断幕。
「祝 センバツ優勝」
新入生たちは足を止める。
「すごいな」
「本当に全国優勝した学校なんや」
そんな声が聞こえてくる。
体育館。
入学式が始まる。
新一年生たちは緊張した表情で椅子に座っていた。
その中には野球部希望者も多かった。
柳城は今や全国王者。
憧れて入学してきた生徒も少なくない。
式が終わる。
新入生たちは校内を見て回る。
グラウンドの前では足を止める生徒が多かった。
そこでは野球部が練習していた。
主将の佐伯。
そして。
新二年生になった小早川塁。
小早川史陽。
昨夏の甲子園準優勝。
そして春のセンバツ優勝。
全国区の選手になりつつあった。
「塁先輩だ」
「テレビで見た」
新入生たちがざわつく。
だが当の本人は黙々と投球練習を続けている。
史陽も同じだった。
ノックを受ける。
捕る。
投げる。
ただそれだけ。
昼休み。
野球部の見学会が行われた。
グラウンドには大勢の新入生が集まる。
過去最多だった。
部長が苦笑する。
「監督、こんな人数初めてです」
福間監督は腕を組む。
「優勝の影響です」
しかし。
監督の表情は厳しい。
「続けられるかどうかは別です」
周囲は笑う。
だが本気だった。
甲子園優勝。
その看板だけでは野球は続かない。
夕方。
練習終了後。
塁と史陽がグラウンド整備をしていた。
ふと新入生たちを見る。
憧れの目。
尊敬の目。
一年前。
自分たちもそうだった。
塁が笑う。
「去年の俺たちみたいやな」
史陽も頷く。
「そうやな」
そして少し間を置いて言った。
「でも俺たちも、まだ二年生や」
塁は笑った。
確かにそうだった。
全国優勝したとはいえ。
まだ高校生活は半分も終わっていない。
グラウンドの向こう。
桜の花びらが風に舞う。
福間監督はその光景を見つめていた。
新しい一年生。
成長した二年生。
そして最後の夏を迎える三年生。
柳城高校野球部の新しい春が始まった。
しかし。
その春の影で。
東京では大学ニ年生の小早川啓介もまた、新たなシーズンを迎えていた。
まだ誰も知らない。
数年後。
啓介が再び柳城高校へ戻って来ることを。
第58話 終
コメント
1件
塁と史陽が「まだ二年生」と自分たちの立ち位置を見つめ直すシーン、すごく沁みました。優勝の余韻と新入生の憧れに浮かれる空気の中で、福間監督があえて「続けられるかどうか」と現実を見据える厳しさが、この作品らしい深みです。歴史の隙間で東京の啓介に触れたラストも、読者の想像を広げる巧みな仕掛け。新しい春の息吹と同時に、これから始まる物語への緊張感がじわっと伝わってきました。