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#一次創作
ruruha
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「いいえ、殺したりしないわ」
思いがけず、穏やかな声が落ちてきた。
彼女は膝をつくと、私の頬を両手で包み込む。
「ばかね。そんなことするはずないじゃない」
その体温は悲しいほど温かかった。
その時、初めて自分の体温が低いことに気づく。
ああ、私はヒトでは無くなった……。
「私にとって、あなたは特別なの。偶然出会ったあの子とは違う」
「特別?」
「そうよ。あなたは私のたった一人の娘。私が血を与え、造り出した……私が望んだ、私の子。私たちは家族なの。そうでしょう?」
「家族……」
ーーわたしたちはかぞくなの。
そう言った女の人はもう知らない誰かじゃなくて、私のよく知っている『お母さん』だ。
くらっとデジャヴを覚える。
ああ、これはあの白い闇から抜けた時と同じ。
幸福な気持ち。
そうだ、あの時私は間違いなく幸福だった。
新しい世界は晴れやかで、命に溢れている。
抱きしめてくれる温かい腕があった。
私はこの世界に歓迎されて、迎えられていたのだと信じた。
分からない。
何が本当で、何が嘘なのか。
何が正しくて何が間違いなのか。
まあ、また熱があるのね。お薬飲んで寝ましょうね。
「あなたは私の娘。私に力を与えてくれる大切な存在」
お母さんの手が、私の頬を優しく撫でる。
いつもと同じように。
誰か教えて。
正しいことって何?私は何を選ぶべきなの?
おみやげよ。新しいご本。
ほら、絵がとっても素敵でしょう?
きっとレナが気に入ると思って。
「分かるでしょう。お母さんにはあなたが必要なの……」
彼女の体温が包み込んでいく。
ポロポロと涙が溢れた。
人で無くなってしまっても、このままでいられる?
あなたなら、このまま居させてくれる?
「ただねえ、少し必要な時にほんの少しだけ血を分けてくれればいいの。それだけでいいのよ」
おかあさん。おかあさん。
胸の中で繰り返す。
ああ、何でこの言葉は美しいの。
まるで、ヒトの血のように甘く切ない。
「あなたは何にも心配しなくていいの。お母さんに任せておけば、何もかもうまくいくわ。今まで通り、二人で生きていきましょう」
そう言って、お母さんは私に手を差し伸べた。
姉ちゃん、唐突にフレディの声が甦る。
今マデ通り?
横たわる屍と流された血は、無かったことになるの?
リズは?マシューは?フレディは!?
私の生きてきた今までを……あなたの犯した全てを無かったことにできる?
「出来るわけない!!」
反射的にその手を振り払っていた。
私たちの世界を壊したモノを、私たちの世界を奪ったモノを許さない。
それに目を瞑る自分だったら、許せない。
今まで通りなんて馬鹿げてる。
何もかも壊れてしまったじゃない。
私の大切なものは全部。
そうよ、あなたさえ!
どこが今まで通りだ!
「そう……残念だわ」
アーシュラは項垂れると、悲しげに呟く。
その瞬間、脇腹に熱い衝撃が走った。
見ると、私の体が銀のナイフをその根本まで飲み込んでいる。
しゅうっとナイフから煙が上がり、黒く変色。
途端に体がぐうっと重くなった。
「あ……」
平伏しそうになる体を、両腕で必死に支える。
背中から誰かがのしかかっているような感覚。
「血がもったいないから、これ以上傷つけたくはなかったんだけど」
体が動かせない。
「あなたが私の娘でないと言うのなら、私もあなたに優しくする必要ないでしょう?」
言いながらアーシュラは指についた私の血を舐めた。
「ああ……」
喜びの声が漏れる。
「央魔の血は奇跡の血……そうね、その通りだったわ。その血は私に力と若さを与えてくれた。もちろんそれは魅力的だったし、感謝しているんだけど……でも、もっと大切なことがあるの」
ギラギラと光る青い目が私をーーいいえ、私の首から流れる血を捉えた。
「ねえ、知ってる?あなたたちの血はーーとても美味しいの」
「!」
「安心して。さっき言ったことは嘘じゃないわ。あの子の時はうっかり吸いすぎてしまったけど、あなたは殺したりしないわよ。少しずつ、少しずつ、加減、して吸って、あげる、から!」
堰を切った狂気が溢れ出す。
逃げなければいけないと思うのに、銀のナイフのせいか体が全く動かない。
腕を上げることさえ出来ない。
もう……だめ。
意識が、遠く、なって……。
「あなたは私の誇りよ」
陰っていく意識の向こう、満足気なアーシュラの声が聞こえる。
「”影”を分離させるなんて上手くいくかどうか分からなかったけど、”影”もあなたもよくやってくれたわ。これでお友達も浮かばれるでしょう。地下に放り込んだ甲斐があったわね」
「!!」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが弾けた。
ーーレナーー血を!お前の血を!
私の口から伸びた長い舌がアーシュラの喉に突き刺さる。
「レナ……あな……た……」
彼女の手が私の舌を掴もうと動いた。
最後の力を振り絞って、もう一度舌に力を込める。
舌がアーシュラの喉を貫通した。
「そ……んな……」
央魔ノ血ヲ吸ウガタメ、多クノひとノ血ヲ流シタ。
オマエコソ吸血鬼ダ!
ずるりとアーシュラの体が崩れ落ちる。
同時に力尽きた私の舌も、地を這って口の中へ戻った。
甘くて苦い血が私に流れ込んでくる。
戻レナイ。戻ラナイ。
オマエノ命デサエ、皆ノ命ハアガナエナイ。
ドコガ聖女ダ!
血ヲ モット 血ヲ
戻れない。戻らない。
あなたの命でさえ、皆の命はあがなえない。
どこが聖女だというの?
血を もっと 血を
ケレド、オマエノ命ハ、死者ノ慰ミトナロウ。
けれど、あなたの命は死者へのせめてもの手向け。
倒れ伏したアーシュラの手が萎んで骨張り、枯れていった。
これがあなたの本当の姿。
今まで通りはもう返ってこないのよ。
私にも、あなたにも。
粉々に砕けて消えちゃったの。
重い腕を必死に動かして、脇腹のナイフを抜き捨てた。
血が流れていく。
けれど、体は軽くなった。
よろめきながら立ち上がり、空を見上げる。
太陽の姿はまだ見えない。
けれど、世界はその恩恵を受けて輝き始めている。
朝がやってくる。
今日はよく晴れるだろう。
コメント
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みぅです🤍🥀 第40話、読み終わりました…。 「あなたは私の娘」っていう優しさと狂気の間、すごく怖かったし、切なかった。レナが最後に振り払った手、あれが彼女の本当の強さだと思いました。それでも、朝が来る描写に少し救われた気がします…。 重かったけど、ちゃんと受け止めました。続きも静かに読みますね🌙