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数日後。

イザナが出掛けてしまい、一人きりになってしまった室内に居るのがいやで、理由も無くフラフラと家から1番近いコンビニへと足を進ませた。






冷たい空気が漂わせながらあたしを迎え入れてくれたコンビニへと入ったはいいものの、特に買いたいものもないので様々な色に染められているお菓子の箱が並べられている商品棚をぼんやりと眺めていると、不意に肩をトンッと軽く叩かれた。


「○○…だよな?」


そう恐る恐るという口調でこちらにそう尋ねてくる自分と同い年くらいの男の子の姿に数秒思考を巡らせると、記憶の底で笑う幼い男の子の姿と合わさった。

もしかして。とおぼろげな記憶から引っ張り出した名前を問うと、記憶の端に埋まっていたあの笑みと同じ顔で頷かれ、ふわりと懐かしさが沸きあがって来る。


『久しぶりだね、元気だった?』


小学校時代の同級生だっただろうか。懐かしさと大人っぽさを同時に持ち合わせたその男の子の姿にそう思い出す。


「なんか買いに来たのか?」


『ううん、彼氏が出掛けちゃってやることないから何となく来てみたの。』


「えっ!?○○彼氏居んの!?」


『居るよ。』


テンポよく進んでいく会話と、あからさまに驚いたような表情を浮かべる男の子の姿に、つい口元が湯んでしまいふふっと小さな笑みが零れた、その瞬間。


「何してんの?」


不機嫌で重々しい声とともに自身の体をぐいっと引っ張られ体が軋んだような痛みを出す。


『イザ、ナ?』


背後をゆっくりと振り向くと、不機嫌とも怒りともとれる鋭い表情を顔に浮かべるイザナがあたしと男の子を睨みつけるように見つめていて、どうしたの。という問いが喉に詰まった。



─…「男と二人きりで喋ったら許さねぇから。」



以前告げられたその言葉が脳裏を掠めた瞬間、不安が絶頂を通り越し、喉がヒュッと掠れたように嫌な音を出して鳴った。目が大きく見開き、心臓がドクンと激しく脈打つ。

カランと彼が動くと同時に揺れる聞き慣れたピアスの音がやけに大きく耳の中に響いて、壮大な恐怖を生んだ。


『ちが…違うの、偶々会って…』


どうにか言い訳を並べようと暴れる舌が何かの余韻を持ったようにグラグラと震える。

何も言わないままジッとこちらを刃のような鋭さを含んだ視線で見つめてくるイザナの姿に、不安と恐怖の色がさらに濃く重くなっていく。






どうしよう。


また殴られる。


首を絞められる。


蹴られる。







頭の中に黒い靄のようなものがじんわりと広がっていく。

そんな嫌な考えたちはジリジリと脳を焼き付けて、自身の体を棒のように固くした。

不安そうにこちらを覗いてくる男の子の顔や、ギュッと骨が折れそうなほどの強い力であたしの腕を掴んで来るイザナの表情が涙でぼやけて歪む。

必死に舌を震わせて作り出した音はもはや声にすらなっておらず、心臓の鼓動のように規則正しく繰り返していた吐息はいつ飲まんか荒い息に変わっていて口元を零れ落ちた。背中にじわりと湧き上がってきた汗が気持ち悪い。吐き出しそうなほどの動揺があたしの思考がぐちゃぐちゃに絡みつけた。頭の中が真冬の空気のように冷たく凍りつく。


「…帰るぞ」


その言葉に、自身の顔が嗚咽の前触れのように歪むのが分かった。後頭部にぞわりとした歪な感覚が走り、もう一粒、冷えた汗が背中を流れる。

ぐいっと腕を引かれ、いらっしゃいませと新しい客を迎え入れる店員さんの声と慌てたような男の子の声が段々と遠のいて行く。


『…イ、イザナ…?』


前を歩く彼の背に掠れた声でそう問いかける。

だが先ほどと同じ引っかくような痛さを持った彼の鋭い気配に、神経がザワザワと暴れ出す。自身の眉の間に胸騒ぎに似たドス黒く重い影が漂い始めた。どうにかそんな表情を動かしたいのに、まるで凍り付いてしまったかのようにピクリとも動かない。

少し前に殴られたときの痛みや恐怖がまるで昨日のことのようにハッキリと自身の目や体に浮かび上がった。その瞬間、言い訳しようという抵抗が頭からこぼれ落ちていき、体を蝕んでいくような絶望感に飲み込まれていく。

周りの時間の進みがスローモーションのような酷く遅い動きに見えた。




部屋に入ると同時に勢いよく体を突き飛ばされ、家具の角に体をぶつける。

痣だらけの体はほんの少しの衝撃でも痛みを拾いこんでしまい、痛みに歪んだ口の端から鈍く濁った声が洩れた。


「…なんでオレ以外の男と喋ってんの?」


ドスを利かせた低い声で言葉を放ったイザナの紫色の瞳が、痛みに顔を歪めるあたしをジッと見下ろす。


『ぐ、偶然会った…から…』


声が震えないようにと吐き出すように語尾に力を入れて、一つ一つ区切るようにはっきりと言葉を落とす。

彼の瞳に反射した自身の表情は、化石のように乾いており、顔はぼやけるように歪んでいた。


『…イザナもあの子知ってるでしょ?なんでそんなに怒るの?』


叫ぶように声を張り上げ、そう言葉を落とした瞬間、自身の眼球に薄い霧に似た膜がかかった。その透明な膜はやがて雫へと変化していき、ぽろぽろと自身の頬を滑り落ちていく。恐怖で今にも意識が煙のように消失していきそうなくらいフワフワと安定しない 。

「オレ以外の男と二人きりで喋んなって言ったよな。」


停止した機械のような無表情を浮かべるイザナがあたしの傍にしゃがみ込み、首に手を近づけた。ツーと流れていく褐色の指先の動きに不安に似た恐怖心が乾いた表情にくっつく。


「なんで約束守れねェの?」


逃げなきゃ。と思うのに寝不足みたいに脳が上手く動かず、ジタバタと手足を暴れさすだけになってしまう。まるで昨日のことのように体に鮮やかに蘇ってきた首の圧迫感に、霧の中を彷徨うかのような色の濃い混乱が沸き上がる。




ただ喋っただけなのに。


別に浮気と間違えられるような話題は話していないし、していない。


ただの友達。


それ以上もでもそれ以下でもない。


ただそれだけ。


なのに、なんで。





─…「好きならその人が傷つけるようなことしないよ。」



不意にあの友達の言葉が泡のように浮かび出て来る。



嵐のように呼吸を空気中に弾ませ、グルグルと気味が悪いほどの速さで巡る様々な思考に、大声で叫びたい衝動に駆られる。



もしもこの“愛”が間違っているというのならば。

あたしはどうすればいいの。



気付いた時にはあたしはイザナのことを押しのけて、部屋を飛び出していた。







続きます→♡1000

ぜーんぶ愛だもんね!【黒川イザナ】

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