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「小さい時はお母ちゃまお母ちゃまって私にべったりだったのよ」
「賢一もですか?」
「そうよ、子供の頃“は”本当に可愛くて素直だったのに、今じゃ計算高い曲者になっちゃって」
「でも、新はわかる気がする」
「そうね、新二はいつまでも甘えん坊だったから、ついつい甘やかしちゃったのよね。でも、花ちゃんがしっかり者だから良かった。ビシビシ言ってくれていいのよ」
「そんなことないですよ。新って結構、頼りがいがあるんです」
「そうなの?」
「お義母さん、全然信用してない感じですね」
「そんなことないけど、あの子も成長したのかしらね」
「まぁでも、こんな日が来るなんて最高ね。おばあちゃま」
お義母さまからの温泉に行こう!という鶴の一声で箱根のお祖父様の邸宅に集合となった。
部屋も十分過ぎるほどあるので、ほぼ老舗旅館だ。おかげで気兼ねなく温泉を楽しめる。
というのも、義両親、花と新二くん、そして私と賢一とそして賢斗がいる為、お出かけするにもどうしても周りに気兼ねをしてしまうが、ここなら賢斗が泣いてもぐずっても誰かしらがみてくれて安心できる。
「でも本当に、男兄弟だと中学に上がったころから急によそよそしくなるのよ。女の子が欲しかったけど、今になってこんなにかわいい娘が二人もできたんだもの、よかったわ。ねぇおばあちゃま」
「そうね」
そう、今はお祖母様、お義母さま、私と花で自慢の温泉に入っている。
「いつでも来ていいのよ」
お祖母様は上品で綺麗な年齢の重ね方をしている。若い頃は凄い美人だったんじゃないだろうかと思う。
そして、そのお祖母様に花はいたく気に入られている。
新二くんを更生させ立派な成人男子に生まれ変わらせた天使だとか言っているそうだ。
お義母さまに至っては、インキュバスの誘惑から救ってくれたメシアだとか兎に角、大島家からものすごく可愛がられている。
その花も先週、結納を済ませて新二くんの婚約者になった。
「お義母さまとお義父さまって仲がいいですよね、本当に憧れです」
「あら雪ちゃん、そうなのよ。おとうさん私のことが大好きなのよね。もちろん、私も大好きよ。おじいちゃんになったのに相変わらずイケメンだし、財力あるし」
以前、賢一とそんな話をした時、大島の男性陣は奥さんを溺愛する血筋だとか言っていた。
お祖父様もお義父さまも本当に奥さんを愛しているのがよくわかる。
そして、お祖母様もお義母さまも。
お互いがお互いを信頼しているからこそ愛情が錆びないのかもしれない。
「そうそう、おとうさんったら賢一や新二の時はお仕事が忙しかったから学校行事にでられなかったでしょう、だから賢斗の時は自分が出るって言って筋トレ始めたのよ。本番前にぎっくり腰にならなきゃいいけどね、ほほほほほほほ」
お義父さまが、お義母さまの今だに無邪気で可愛いところが子供の頃に飼っていたソマリという品種の猫に似ていて愛おしいのだそうだ。ちなみに、“たま”という名前だったらしい。
「それなら、ここの温泉にもっと来ないとですね」
「今度は、雪ちゃんのお父さんご夫婦も一緒にいらっしゃいな」
「でも、ご迷惑じゃ」
「賑やかでいいわよね、おばあちゃま」
「そうね、部屋なんかたくさん余っちゃってるし、無駄に広い家だからじいさんと二人だとなんか出てきそうなのよね。だから、人がたくさん来るのは大歓迎よ」
「それに、敬子さんには賢斗を見てもらってるし、この温泉はまだまだ人が入るし」
そう、私は今はリモートで出来る範囲の秘書の業務をしながら子育て中だが、それは敬子さんやお義母さまが定期的に来てくれるおかげで出来ている。
時々、敬子さんとお義母さまが一緒になることがあるが、気さくで明るいお義母さまはあっという間に敬子さんとも仲良くなっていた。
「おーい、まだ入っているのか。さすがに賢斗がぐずって男チームではもう限界なんだけど」
「話し込んじゃって、のぼせちゃうわねもう出ましょうか」
お義母さまの一言で、温泉d e女子会はお開きになる。
私もいつか賢斗が好きになった人とこんなふうな時間を過ごしたい。