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──カイと会った日から、数週間程が過ぎたある夜に、
「叶、ちょっと来い」
と、編集長から手招きをされた。
編集部内は人が出払っていて誰もおらず、私がデスクに近づくと、
「こないだのことだが……、」
ややひそめた声で、そう話が振られた。
「はい…」と、固唾を飲んで頷く。
「……ヴォーカルの彼の受け入れ先が、決まるかもしれない」
編集長の言葉に、思わず「本当ですか?!」と、大きな声が出た。
「ああ…大手事務所が、受け入れてもいいと言っていてな」
「……そこは、でも、シュウの息はかかってないんですか?」
やはり気になって、恐る恐る聞き返すと、
「かかってるだろうな…たぶん」
と、編集長は答えたが、
「だが、大丈夫だ。かなり上の方に話を通したから。そのシュウとかいう奴の影響も、及ばないはずだ」
力強く請け負ってくれた。
「ありがとうございます、編集長!」
「ああ、しかしまだ根回しは少し必要だからな……。……事務所の移籍は、筋を通さないと、遺恨が残ることもあるから慎重にしないと……」
そう言うと、高岡編集長は、
「だから、しばらくはまだ、この話はオフレコで頼む…」
と、私に念を押してきた。
「わかりました。ありがとうございます…編集長、本当に…」
じわじわと込み上げる嬉しみに、深く頭を下げると、
「まかしておけ。頼りがいのある、編集長様に」
顔を上げた私に、高岡編集長はニッと笑って見せた──。