テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
カイの移籍の話がようやく動き出したことで、私は嬉しくてしょうがなく、早く彼にもこのことを教えてあげたいとも思ったけれど、まだオフレコで……と編集長からのお達しもあって、伝えることは控えていた。
それは彼に話してあげたい一心で、仕事にさえいつにも増して意欲が湧いてくるような、そんな感じだった。
「カイ、朗報を待っててね…」
私は、彼の顔を思い出し、幸せに浸るような思いすら感じていた。
「もうすぐ、あなたを助けてあげられるから」
彼に直接語りかけるような思いで独り呟くと、込み上げる気持ちに自然と顔がほころぶようで、普段と変わらない毎日の帰り道も、自然と楽しみにも感じていた──。
それは高岡編集長に彼の移籍の話を聞いてから、既に半月程が過ぎた、そんなある日のことだった。
仕事終わりの帰宅途中、カイのことを思い、わくわくとして無意識に軽くもなっていた足取りが、
突然に──、
目の前に立ちはだかった人影に、阻まれた──。
「え…あなた……」
現れた人物に気を取られた、その一瞬に、
背後から伸びた他の誰かの手に口を抑えられ、脇に止まった車の中へ、あっという間に体が引きずり込まれた。
車内にはもう一人男が控えていて、乗せられるなり、グッと拳で腹部を殴りつけられて、私は、そのまま気を失った……。