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第11話正体
「さてと、説明を始めましょうか…」
目の前にはギラリとこちらを睨む舞
今朝までとは打って変わる凶暴な姿に少し身がすくむ
だがここで遅れを取っては舞の思う壺だろう
「まず、最初に違和感を持ったのはほんの数日前」
「舞がうちの部屋に朝起こしに来るようになってからだ」
「うちが思うに、うちが舞に依存すればするほど、うちのここでの価値は下がる一方だったと思う」
[どうして?]
女将が不思議そうに聞いてくる
…どうやらこういう謎解きのようなものは苦手らしい
花御格子はなるほど、と言わんばかりの真剣顔でこちらを見てくる
普通に緊張するからやめてほしい…
「うちが舞に依存したら、朝起こしに来ている舞を全て信用することになる」
「そうすれば、舞が夜中や夕方に起こしに来ても、うちは勘違いするだろうね」
「だからその間こなすべき仕事が溜まり、遊女としての価値が下がるというわけです」
なるほど…と、女将が顎に手をかける
《でも何故?鞠浪には何の得もないんじゃなくって?》
僕は首を横に振る
「いえ、その逆です。利益だらけなのですよ」
「うちは、両親が懇意にしているこの遊郭に来ました」
「つまり、うちの両親は上層との繋がりがある」
「その架け橋ともいえるうちを貶めることで、両親への利益はなくなる…」
「つまりは、借金のためうちをここに売ったのに、向こうにお金が入らない、と言うことです」
[それでも鞠浪さんにはあまり関係なく思えるけど…]
これまた大きな勘違いをしている
舞が何の得もなく僕の邪魔をするとは思えない
「いえ、あるのですよ、舞の家に得が」
[…!?]
「お気づきでしょうか、舞の家は上層と懇意にしています」
「恐らくの話になりますが、うちの両親が邪魔だったのでしょう」
「そして、家ごと落とすため、うちを邪魔した」
「…違いますか?」
我ながら、説明していて筋は通っていると思っている
うちがここで稼げば、家にお金が入る
そして今、黒崎様が僕に興味を持ってくださっている
つまりは、家に莫大な資金が入るかもしれないと言うことだ
それはそれは、舞の家からしたら困るだろう
何せ、敵対視している家がお金を持つのだ
何をされるかわかったものじゃない
…かといって、娘を使ってまで邪魔してくるとは思っていなかった…
{…違う、って言ったらどうする?}
苦し紛れの言い訳か、にやりと笑う
「そんなの、上に聞けばいいじゃないか」
「ここには上層に面会の許可を取り付けられる人もいる」
「最悪、うちの母を頼るよ」
チッ、と軽く舌打ち
こんなにも様子が怪訝な舞は初めて見る
……今までのが演技だったなんて信じられない
信じたくない
僕からしたら唯一信じられて、友人だと思っていた
でも舞からしたら、僕は敵視している家のただの子供だったってわけか…?
それとも、ただのターゲット?
いや、どちらでもいい
どちらにせよ、僕はもう信用に足らないこの人を守る主義などない
{そうよ、全部あんたが言った通り}
{どう?2度目の裏切りは}
くすくすと笑う
本当に口達者なやつだ
「たしかに、うちは父に売られた」
「裏切られた」
「でも、それは家のためだ」
「それなら裏切りじゃない」
「うちはまだ必要とされてる人だよ」
本当はそんな事思ってない
最悪だと、死んじまえとまで思った
でも、今はこの嘘がこいつには痛手な言葉だろう
……こいつだなんて、舞に使いたくなかった
本心はそう言っている
そう思ってしまうほどに、舞のことは好ましく思えていた
だから、残念だ
{っ…!}
{な、なによ…っ、その家に売られたくせに、}
{結局みんな自分のことしか考えてない奴らばっかりじゃない…っ!}
{さっきの考察、正解よ}
{あんたの言った通り}
{でも、だからなに?}
{あんたの昇格は叶わない}
{ふふっ、残念だったねぇ…?}
にやにやと、気味悪い微笑み浮かべる
たしかに、僕にはどうすることもできない
まあ、もともと昇格なんて望んでないし、家のために昇格したいなんて微塵も思っていない
まあいっか、で済ますだけだ
「別に?うちは昇格したいなんて微塵も思ってないよ」
「そもそも、家のために動くなんてまっぴらごめんだね」
{は…?}
{さっき親に裏切られてないって自分で言ってたじゃない!}
確かに言った、でもそれは嘘だから…とは言えない
「そうだね、確かに言ったよ」
「でもさ?うちが協力するかしないかは、うち次第でしょう?w」
舞が驚きの表情を隠せていない
今なら、勝てる
あの饒舌の舞に
「家に裏切られてなくても、売られたことは事実」
「うちが怒っていることも事実」
「じゃあさ?うちが家のために面倒事に巻き込まれるなんて嫌だって思わなかったわけ?w」
煽る煽る
いつもは口答えしない僕からこんな言葉を聞いて、唖然としているのだろう
「…うち、舞のことは信じてたよ」
「でも、勘違いだったみたいだね」
「残念だよ、本当に」
少し、悲しげな表情をしていると思う
今までのことを思い出したから
{…っ、}
{あっそ、勝手に信用して勝手に落ち込まないでよ}
{じゃあね、私はここでの用は終わったから}
{もう会うことはないと思う}
{よかったじゃん、裏切り者の私と会わなくてすんで}
…ねぇ、本気でそれ言ってんの?
泣きそうになってんじゃん
そんな顔で言われても説得力の欠片もないんですけど
舞が横を通り過ぎようと、こちらに向かってくる
僕の丁度横を通りかかる時、
「待って」
舞を止めた
「会えなくなって、よかったって本気で思ってんの?」
「うちがそんなふうに思ってると思う?」
完全に二人の世界に入ってしまっている
僕らより少し離れた場所にいる花御さんたちは、様子を伺う
{…そうじゃないならなによ、}
顔を見せない
ずっと前だけ見て、僕を見ようともしない
「だから…っ、!」
ぐいっと、舞の手を引っ張る
「会えなくなるのは、少し…寂しいって言ってんの、」
「…こういう時だけ鈍感なの、やめてよ」
僕は何を言っているんだ、
さっきまで嫌悪していた舞に
…これが本音というのか、なんなのか
頓と見当がつかない
僕に引っ張られ、振り返った舞の表情は目が赤くなり、雫の通った跡が見られた
「…ほら、舞だって泣いてんじゃん、w」
苦し紛れに笑う
{泣いてなんか…っ、}
「言い訳、するの?」
にやっと口角を上げる
{……はぁ…、しないよ}
{私の負けだよ、さくら}
呆れ顔で言ってくる
[このことは、上層に報告いたします]
[しなければ、私が追求されるでしょうから、]
先程まで様子を見ていた女将が口を開く
「え、でもそんなことしたら舞は…」
[そうね、ここを追われることになるでしょう…]
[それに、舞さんの両親方も上層から追われるでしょう]
「…言わない、という手札はないのですか…?」
[…残念ですが…]
やはり罰せられなければいけないのか
舞は親に命令されただけだろうに…
{大丈夫、さくら}
{私はここを出るけど、また会いに来るよ}
{それならいいでしょう?}
先程の気味悪い微笑みとは比べ物にならない、天使のような微笑みを僕に向ける
「まあ…、」
{ただ、私の両親は上層追われないと思います…}
[何故?]
{勘、ということにしてくださいませんか?}
{また動きがあればこちらにも情報が届くでしょうし}
と、花御さんの方を見る
なるほど、舞は花御さんの裏のお仕事のことも知っているのか
ん…?ということは…
「まさか、花御さんが黒崎様に固執していたのも情報がお目当てで…?」
恐る恐る聞く
《そんなわけないじゃない》
《あの人には本気よ》
《だから、あの人が貴方を指名したその日からうちのライバルよ》
まさか、本気だったとは…
さらに面倒なことを聞いてしまったようだ
無かったことにしたい
{それは置いといて、さくら、昇格のことあの人に相談してみたら?}
{貴方が昇格したいと思うかは分からないけれど}
…さっきの話聞いてたかな?
僕は昇格なんてしたくない
それにあの人…というのは恐らく黒崎様だろう
何故、と思ったのは一瞬
あの人は、ああ見えてお偉い方だった
取り次いでもらえれば、僕も昇格できるだろう
でも、その道を選ぶのなら、必ず舞の両親とも相まみえることになるだろう
……それは正直嫌だ
だが、昇格が叶わなかった時落ち込んだのも事実だ
だから、一度だけ相談してみるのも悪くないと、この時の僕は思ってしまったのだった
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コメント
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ほうほう、、