けれど彼が町田さんを十二年も継続して雇っていた事を思うと、きっと彼女は尊さんが求める〝何か〟を満たしていたんじゃないかと感じた。
その時、町田さんが私を見て、優しく笑いかけてきた。
「つい最近ですよ。速水さんがガラッと変わったのって」
それを聞き、ドキッと胸が高鳴る。
「二十代の女性が好きそうな料理を尋ねてきたり、写真映えしそうな物は作れるか尋ねてみたり、すぐに『恋をされてるんだ』と分かりました。そのうち、照れくさそうに『恋人を家に上げるようになるかもしれない』と言われて、私、自宅で一人で祝杯を挙げてしまいました」
町田さんが本当に嬉しそうに言うものだから、私は照れて真っ赤になってしまった。
「それで、やっと上村さんにお会いできたもので、年末は嬉しくて嬉しくて……。つい初詣で『速水さんと上村さんが幸せになれますように』ってお祈りしてしまいました」
「ありがとうございます……」
私たち二人の仲を、ここまで祝福してくれる第三者って初めて見たような気がして、つい照れてしまう。
「今までの速水さんの無関心な目を知っているだけに、上村さんを見る速水さんの目の優しさを見たら……!」
そこまで言い、町田さんは「きゃーっ」と華やいだ声を上げて両手を合わせる。
乙女だ……!
「ほ、本当ですか? う、嬉しいな……」
髪を弄りつつ照れると、町田さんは私を見て「可愛い……」とニヤニヤする。
「ですからもう、私は第二のおかんの気持ちになってお二人を見守っているんですよ」
「こ、これからも宜しくお願いいたします……」
頭を下げると、町田さんは「あらやだ、お喋りしすぎましたね」と、ごまかし笑いをしてまた手を動かし始める。
「……そうだ、一つ質問してもいいですか?」
仕事を再開したのに申し訳ないけど、一つだけ確認しておきたい事があった。
「はい?」
「尊さんって、この家に女性を上げた事はありますか?」
「ありませんね」
町田さんは即答し、私はその答えの速さに少し驚きながらも、頼もしい返答に喜んでしまった。
「厳密に言えば私が出入りしていますが、あとは身内の方もご友人も、私が知る限り誰も上がった事はないと思います」
「そうなんですか……」
てっきり怜香さんや、ちえりさんとかなら上がってるのかと思いきや、かなり徹底しているらしい。
嬉しくなった私はデレデレして黙ってしまった。
その時、スマホがピコンと鳴ってメッセージが入った事を知らせる。
アプリを開いた私は、ちょっと失念しつつあった名前を目にして瞠目した。
「……春日さん」
風磨さんのかつてのお見合い相手、三ノ宮グループの令嬢、三ノ宮春日さんから連絡が入っていた。
(そういえばあの時、恋バナを聞きたいって言われたっけ)
修羅場の一月六日、春日さんも事態解決のために協力してくれた。
ビジネス的な〝お礼〟は会社を通すとして、個人的には私とエミリさんの恋バナが聞きたいと言っていたのだ。
メッセージを開くと、思っていたよりフレンドリーな文章があった。
【朱里さん、こんにちは~! 三ノ宮です。春日って呼んでね。以前に言っていた女子会についてだけど、都合のいい日があったら教えてくれない? 男子禁制で都内のちょっといいホテルを借りて、気兼ねなくおしゃべりしたいと思って! 勿論、ホテル代は私が出すから気にしないで!】
文章が明るい。めちゃくちゃ明るい。
(お嬢様だしもっとまじめな態度をとらないと……、と思っていたけど、一つ上だしあまり気負わなくてもいいのかも……?)
そう思うものの、私の下手な一言が何を招くか分からないので、気を抜けない。
(……とはいえ、今はイン・フル子な訳で)
ちゃんとした返事ができる状況で答えたほうがいいと思い、ありのままを伝える事にした。
【春日さん、お久しぶりです。お元気でしたか? 私はインフルエンザに罹患してしまい、今高熱を出しています。もう少しして楽になった頃合いで、再度お返事をしても構いませんか?】
返事を送ると、すぐさまキャラクターが【!!】と驚いているスタンプが送られてきた。
しかも睫毛バシバシの白目になってる、少女漫画風のやつだ。
【変なタイミングでごめんね! 勿論、今はゆっくり休んで! 全然急がないから、元気になったあとで大丈夫だから。返事は気にしないで!】
そのあとキャラクターが【お大事に】と合掌しているスタンプが送られてきた。
私も【ありがとうございます】とキャラクターがお辞儀をしているスタンプを送り、一旦やり取りを終わらせた。
コメント
2件
きゃ〜ッ‼️の町田さんが好き♥️一緒にきゃ~ッ‼️だよ。(笑)
春日さん!めちゃくちゃ楽しみにしていたんだね〜❣️それもホテルのお部屋借りてって、もっちのろんてわスィートルームだよね⁉️ 朱里ちゃん回復後の楽しみ増えたよ〜⋆⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝♪