一度お手洗いに行って戻った頃には、町田さんはリビングダイニングの掃除を終えていた。
毎日のように細かなところも掃除をしているから、いざという時に大掃除しなくて済むんだろうな。見習いたい。
「上村さん、窺いたい事があるんですが」
「はい?」
町田さんに呼ばれてそちらを見ると、彼女はトイレにあった紙袋を手にしていた。
「わ……っ」
恥ずかしい!
あわあわと誤魔化そうとしたけれど、町田さんは特に何も気にせず尋ねてくる。
「普段お使いのナプキンって、このシリーズでいいですか? 他に多い時だけ使っている物があるとか、タンポンとか……」
うひぃ……。同性で年上でも、やっぱりちょっと恥ずかしい。
「そ、そうです。いつもこのシリーズばかり使っていて。他はないです」
「じゃあ、予備を買ってきますね。あとサニタリーショーツの替えも必要でしょう。Mサイズで大丈夫ですか? 二重穿きする下着も要りますね」
「アッ、アッ……。自分で買いに……」
またも恥ずかしくて●オナシみたいになっていると、町田さんはニッコリ笑う。
「先ほども言いましたが、私の事は第二のおかんと思ってください。それに、そんな状態で外に買い物に行かせたら、私が速水さんに怒られてしまいますし、今後、速水さんと結婚したら奥様になるんですから、もっと家政婦のいる生活に慣れてください」
「……そ、そうは言っても……」
困りつつも、『奥様』という単語ににやついてしまう。
「速水さんが、上村さんの必要な生理用品の予備を買ったあと、お手洗いの収納にセットしてほしいと仰っていたんです。ご帰宅されたあとだと、目につく場所にあったら気まずいかもですし、やるなら今ですよ?」
「……そ、そうですね……」
ここは尊さんの気遣いに感謝して、このマンションにいる間、予備とかを気にしなくていい環境を作るべきだ。
「……じゃ、じゃあ、パンツはMサイズでお願いします。安心できるよう、深穿きのやつで」
「分かりました」
町田さんはニッコリ笑ったあと、「それじゃあお昼になる前に買い物に行ってきますね」と出かける支度を始めた。
私はせいぜい、シンプルな濃紺のやつとかを想像していたんだけど、あとから町田さんが買ってきたサニタリーショーツを見て驚く事になる。
かなり張り切ったらしく、ワコールの可愛い花柄の奴を数枚、そしてなんと最高級ラインのサルートのサニタリーショーツまで買ってこられて、目が飛び出るかと思った。
「うっかり汚せないじゃないですか~」と泣きを入れたら、町田さんはカラカラと笑っていた。
「速水さんに愛されているんですから、可愛い下着の一枚や二枚や十枚、どんどん買ってもらうといいですよ」と言われ、「十枚も要らないっす」としか言えなかった。
薬のお陰で高熱は下がったけど、数日は熱があり、咳をしたり鼻水ズビズバな状態になっていた。
まだだるくてお風呂に入る気力がないと言ったら、尊さんがめちゃくちゃ乗り気で「俺が猫洗いしてやる」と道具を揃えてきた。
「じゃじゃん、ドライスプレー」
部屋の椅子に座らされた私は、不安げに尊さんを見上げる。
「何ですか? それ」
「災害時にも介護用にも使えるし、髪を洗う気力がない時にも、なんなら健康な時でも髪をスッキリさせたい時にいいんだってさ」
「ほう……」
白いボトルを見ていると、尊さんがシャカシャカとスプレー缶を振り、私の髪を掻き上げて根元にシュッとスプレーを掛けてきた。
冷たい。でもシュッシュッと掛けられて頭皮を揉みほぐされていくと、だんだんスッキリした気持ちになっていく。
「ドライシャンプー、ミストのとこれがあったんだけど、店の人に聞いたら『ロングヘアならガススプレーがいい』って言われてそうしたんだ。どう?」
言われて髪に触ってみると、べたついていたのが思いの外サラサラしてびっくりした。
「凄いですね、これ」
「だろ。……って、俺も初めて使ったけど」
尊さんはなぜか自慢げに言い、そのあとも私の髪にスプレーを掛けては頭皮を揉んでいく。
すっかり頭がサッパリした頃には、私は人生初ドライシャンプーに感動していた。
「さて、猫の体も拭くか」
コメント
3件
🤭ネコ洗い💕🤭ヾ( 〃∇〃)ツ キャーーーッ♡
町田さん、息子にお嫁さんが来た気分なのかもね😊嬉しかった仕方なさそう〜♡ ミコティよく気付いたね〜!🧴アカリンだるいけどサッパリするともっと回復が早くなるかも。気分がいいから🫧体も拭いてもらったらさらに気持ちいいよ〜🌿🫧2人とも〜よからぬ事にならないようにね〜わらう