テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ご本人様には関係ありません
菊池川詠人
1,712
高校生になって初めての夏休み。だが、成績がなかなか上がらない事に悩む晶子は平日は塾と別の予備校の夏季講習に掛け持ちで通い、カンナはメイド喫茶でのアルバイトに忙しく、なかなか会う機会もなかった。
ある金曜日の夕方、塾帰りの晶子が駅前の商店街を歩いていると、道端でカンナとカンナの母親が考え込んでいるのに出会った。
晶子が駆け寄って母親にあいさつし、カンナに話しかける。
「久しぶり、カンナ。お母さんと一緒に買い物?」
カンナはうなずき、あっと気づいたという口調で晶子に訊いた。
「なあ、晶子。数珠ってどこで買えるか知ってるか?」
「じゅずって、あのお葬式の時とかに手に持つあれ?」
「そう、それ。父ちゃんと母ちゃんが要るんだけどさ。どこで売ってんのか、さっぱり分かんなくてさ」
晶子はカンナの母親に向き直って訊いた。
「おばさん、何か急なお葬式とかあるんですか?」
カンナの母親は苦笑しながら答える。
「葬式じゃなくて法事なんだけどね。うちの亭主の親戚の法事にどうしても夫婦そろって出なきゃならなくなってね。礼服は10年前のを引っ張り出して何とかなるんだけど、やっぱり数珠も要るんじゃないかと思って出て来たはいいものの、どこに行きゃいいのか、途方に暮れてんのよ」
「ううん、どんな数珠かによりますけど。何か宗派の決まりとかあります?」
「いや、そんな上等な物じゃなくていいよ、格好さえつけば。それにあんまり高い物は買えないしねえ」
「だったら、あそこの角のコンビニで買えますよ。一個千円もしないので良ければ」
カンナと母親が大げさにも聞こえる驚きの声を上げた。カンナが言う。
「え? コンビニで売ってんのか? 何回もあそこのコンビニ行ってるけど、全然知らなかった」
晶子がカンナの母親に言う。
「ええと、左側の奥の文房具とかのコーナーにありますよ。でも本当に見かけだけの安物ですよ」
カンナの母親はもうコンビニの方に向かって足を進めていた。
「ありがとよ、晶子ちゃん。カンナ、すぐ買って来るから、ちょっとそこで待ってな」
母親が去ったところで、カンナが晶子に耳打ちした。
「ほんとは父ちゃんも母ちゃんも行きたくねえんだよな。両方の家の親戚と、実は仲悪いんだ」
「そうなんだ。カンナのお父さんの親戚ってどこに住んでるの?」
「新潟。明日二人で行って、明後日帰って来るってさ」
「泊りがけかあ。あれ? カンナは一緒に行かないの?」
「あたいはバイトあるからさ。特に明日は遅番だし」
「夜はどうするの? カンナ一人になっちゃうじゃない」
「別にいいよ。ガキじゃねえんだし、一晩ぐらい一人で留守番ぐらい出来るさ」
コメント
1件
読ませていただきました。第34話、日常の一コマがとても丁寧に描かれていて、ほっこりしました。晶子がコンビニで数珠が買えることを教えるシーン、「え、コンビニで?」ってカンナたちが驚くのも分かります。普段何気なく見ている場所にも、知らない便利さが隠れてるんですね。カンナの「ほんとは行きたくねえんだよな」という耳打ちに、家族の事情が滲んでいて、晶子の「夜はどうするの?」の心配りが優しかったです。二人の距離感が自然で、応援したくなりました。