テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
29
32,829
夜。
シェアハウスのリビングは静かだった。
みんなそれぞれの部屋に戻っていて、物音もほとんどない。
「……」
ソファに座ったまま、もふくんは何もしていなかった。
テレビもついていない。
スマホも見ていない。
ただ、ぼんやりと一点を見つめている。
「……来るの、早かったな」
小さく呟く。
誰に聞かせるでもない声。
昨日の気配。
あの視線。
あの男の言葉。
——全部、分かっていた。
「……隠しきれないか」
軽く目を閉じる。
思い出すのは、昔のこと。
消したはずの記憶。
関わらないと決めたはずの世界。
「……」
でも。
完全には、消えていない。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
その時。
「珍しいね」
後ろから声。
「……」
振り返らなくても分かる。
「うり」
「何してんの、こんなとこで」
軽い口調。
でも、足音は静かだった。
「別に」
もふくんは短く答える。
「ちょっと考え事」
「だろうな」
うりは隣に座る。
「……」
少しの沈黙。
「……来たな」
先に言ったのは、うりだった。
「……うん」
否定しない。
「どうする?」
同じ質問。
何度目か分からない。
「……」
少し考えてから。
「まだ、何もしない」
同じ答え。
でも。
「……いつまで?」
うりが聞く。
「……」
言葉に詰まる。
「向こうはやる気満々だぞ?」
「……分かってる」
もふくんの声が、少し低くなる。
「でも」
顔を上げる。
「巻き込みたくない」
その一言。
「……」
うりは少しだけ目を細める。
「仲間のこと?」
「……うん」
迷いのない答え。
「だから」
小さく続ける。
「できるだけ、普通でいたい」
静かな決意。
「……」
うりは少し考える。
そして。
「無理だろ」
あっさりと言う。
「……」
「もう見られてる」
「狙われてる」
「関わってる」
一つ一つ、はっきりと言う。
「それでも?」
問いかける。
「……」
もふくんは、目を伏せる。
「……それでも」
小さく答える。
「守りたい」
その言葉。
「……」
うりは、少しだけ笑った。
「相変わらずだな」
呆れたように。
でも、どこか嬉しそうに。
「……」
もふくんは何も言わない。
ただ、少しだけ視線を逸らす。
―――
その時。
「……」
廊下の奥。
「(やっぱり……)」
ヒロくんが、静かに立っていた。
(全部は聞こえなかったけど)
(“守る”って言った)
その一言だけで、十分だった。
「(この人たち……)」
ただ強いだけじゃない。
何かを背負っている。
「(だから隠してるのか)」
少しだけ、考えが変わる。
でも。
「……」
それでも。
「(知りたい)」
その気持ちは、消えなかった。
―――
リビングに戻って。
「……」
もふくんは、静かに立ち上がる。
「……とりあえず」
小さく呟く。
「まだ、大丈夫」
そう言い聞かせるように。
でも。
その“まだ”は——
いつまで続くか、分からなかった。