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🌸第18話 追いついた息(夕暮れの校舎前)
夕日の色が濃くなり、キャンパスの影が長く伸びていた。
ひよりは胸を押さえながら、ただ前だけを見て走っていた。
(なんで……思い出したの……?
なんで今さら……)
息が苦しい。
足がもつれそうになる。
でも止まれない。
そのとき。
「ひより……!?」
聞き慣れた声が、風を切って届いた。
ひよりは反射的に顔を上げる。
少し先で、陽がこちらに向かって走ってきていた。
「どうしたの!? なんで走って──」
陽はひよりの肩に手を添え、息を整えながら覗き込む。
ひよりは言葉が出なかった。
胸が痛くて、呼吸が乱れて、
何をどう説明すればいいのか分からない。
陽はひよりの様子を見て、
眉を寄せた。
「……ひより、顔真っ青だよ。
何かあった?」
その声は、驚きと心配が混ざっていた。
責めるでもなく、
ただ、ひよりだけを見ている声。
ひよりは唇を震わせながら、
かすかに首を振った。
「……っ……なんでも……ない……」
「なんでもなくないよ」
陽はひよりの肩をそっと支えた。
逃げ道を塞ぐような強さじゃなく、
倒れそうなひよりを支えるための手。
「誰かに何か言われた?
それとも……思い出したくないこと、あった?」
ひよりの胸が、またぎゅっと痛んだ。
(……陽くん……)
言いたい。
でも言えない。
声にした瞬間、涙が出てしまいそうで。
ひよりはただ、
小さく首を横に振ることしかできなかった。
陽はそれ以上追及しなかった。
ただ、ひよりの隣に立ち、
落ち着くまで待つように静かに息を合わせた。
夕日の中で、
ひよりの震える呼吸だけが、
ゆっくりと静まっていった。