テラーノベル
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合宿から戻った侑くんの執念は、意外な方向へ爆発した。
「治ばっかりずるいわ! 俺だって朱里ちゃんを『餌付け』したる! 俺のトスくらい最高に美味いもん作ったるからな!」
放課後の家庭科室。バレー部の練習前だというのに、なぜか宮兄弟がエプロン姿で向かい合っていた。
私は審判(兼、試食係)として、二人の間に立たされている。
「……ツム。お前、包丁も握れんくせに。……指、切り落としてバレー引退する気か」
治くんは冷ややかな目で、慣れない手つきで玉ねぎと格闘する侑くんを一瞥した。
彼はといえば、まるでお店のような手捌きで、静かにキャベツの千切りを完成させていく。
「やかましい! 愛があれば技術なんて後からついてくるんや! 朱里ちゃん、見ててや! 俺の特製オムライス!!」
「……オムライスか。……俺は、出汁の効いた特製おにぎりプレートや」
火花を散らす双子。
テラーノベルの読者が一番盛り上がる「イケメン双子の料理対決」という、カオスな時間が始まった。
「あーっ!! 焦げた!! 治、お前が呪いかけたからやろ!!」
「……知らん。お前の火加減がアホなだけや。……朱里、これ。……味見、しよか」
治くんは侑くんのパニックを無視して、小皿に盛った「だし巻き卵の餡掛け」を私の口元に運んできた。
相変わらずの、当たり前のような「あーん」。
「……ん。……やっぱり、治くんの味、落ち着く……」
「……そ。……ツムの焦げた卵より、俺の黄金色の卵の方が、朱里に似合うわ」
彼が満足そうに目を細めた、その時。
「あーーーっ!! 治、自分だけ先に食わせるな!! 俺の『ケチャップでハート描いたオムライス』も食え!!」
侑くんが差し出してきたのは、見た目こそ崩れているけれど、ケチャップで大きく「朱里LOVE」と書かれた(文字が歪んで「朱里L○VE」に見える)オムライスだった。
「……ツム。お前、それ……『呪い』やろ。不潔や」
「愛や言うとるやろ!! ほら、朱里ちゃん! 一口だけでも!!」
「……やだ。一個もやらん。……朱里、こいつのは後で角名に食わせろ。……俺の、完食して」
治くんは侑くんの皿をモップで叩き落とす……代わりに、大量の胡椒を振りかけて無力化させた。
「ぎゃあああ!! 辛っ!! 治、お前マジで死ね!!」
「……隠し味や。お前は一生鼻水垂らしとけ。……角名、今のツムの『惨敗記録』、録画しとけ」
角名くんは「これ、視聴率取れるわ」と笑いながらスマホを回し、悶絶する侑くんを引きずって体育館へと去っていった。
再び訪れた、静かな家庭科室。
「……あー、うるさかった。……朱里。……あいつの味、一瞬でも『美味そう』って思った?」
治くんは私の腰をグイッと引き寄せ、耳元で低く囁いた。
スナギツネのような細い瞳が、嫉妬で暗く、熱く光っている。
「……思ったんなら、お仕置きやな。……俺の味以外、二度と思い出せんようにしたる」
双子の厨房、火花散る包丁。
おにぎりの具材よりもずっと激しい、治くんの「独占欲」という名のスパイスが、私の心をドロドロに溶かしていった。