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風花🎧🫧🥀@中学受験生
219
かんな
123
「……何やってんだ、俺は」
屯所を飛び出し、冷たい夜風に吹かれながら歩いているうちに、俺の足は無意識にかぶき町のあの場所――万事屋へと向かっていた。
懐の銀色の包みが、歩くたびにゴツゴツと胸を叩く。
これだけ他の女からチョコを貰っておいて、結局あいつの顔が見たくてたまらなくなっている自分が、心底情けなくて反吐が出そうだった。
どうせ男からのチョコなんていらねぇと言われる。
そんなことは百も承知だ。
だけど、一目あいつの、あの死んだ魚のようなだらしない顔を見るだけで、この胸のイライラも虚しさも、少しはマシになるんじゃないかと思ってしまったのだ。
「あれ、マヨラじゃねーか。こんな夜更けに何しに来たアルか? 真選組の夜回りは暇ネ?」
「あ、土方さん。こんばんは。……どうかしたんですか、そんな怖い顔して」
万事屋の階段の下で、ちょうど外に出てきた神楽と新八に鉢合わせた。
俺は動揺を隠すように、いつもの調子で不機嫌そうに煙草をふかす。
「……万事屋はいるか。ちょっと書類の件で用があってな」
「銀ちゃんなら不機嫌そうにどっか行ったアルよ。バレンタインだからって朝から一人で『チョコがゼロだ、誰も銀さんに糖分をくれない』って畳の上でのたうち回って、ウザさ五倍増しだったネ。加齢臭撒き散らす前にさっさと消えろって追い出したアル」
「そうなんですよ。銀さん、すっごい不機嫌そうでしたね。まるで世界が滅びるかのような顔をして、なんかぶつぶつ言いながら出かけていきましたよ。僕らに八つ当たりされても困るんで、放置してますけど」
二人は思い出すだけでも鬱陶しそうに肩をすくめている。
だが、その言葉を聞いた瞬間、俺の胸の奥で、カランと冷たい音がして何かが崩れ落ちた。
(……すっごい不機嫌そうに、どっか行った、だと……?)
昼間、路地裏で立ち往生していた俺の姿を、あいつは見ていたのかもしれない。
あいつは『男からチョコを貰うくらいなら、女から貰った方が良い』と思っているはずだ。
それなのに、俺が未練がましく銀色の箱を持ってうろついていたから、気色悪くて、あるいは鬱陶しくて、俺に捕まる前に不機嫌になって家を飛び出したんじゃないか。
(俺から逃げてんのかな、アイツ……)
そう思った瞬間、心臓を直接氷水につけられたかのような、凄まじい痛みが走った。
他の女からの何百個のチョコなんて、本当にどうでもよかった。
あいつがそんなに不機嫌になるくらいなら、やっぱり、この銀色の箱なんて最初から買わなければよかったのだ。
俺の独りよがりな、割り切れない恋愛感情のせいで、あいつに嫌われるくらいなら――。
「……そうか。ならいい。パトロールに戻る」
「あ、ちょっと土方さん!? 顔色が真っ青ですよ!?」
新八の心配そうな声を背中で無視しながら、俺は引き返すように歩き出した。
手袋越しに、懐の銀色の包みを強く、壊れてしまうほどに握りしめる。
これ以上惨めな思いをする前に、屯所に帰って、自分の部屋で一人でマヨネーズでもぶっかけて全部胃袋に沈めてしまおう。
傷つきすぎて、もう前を見る気力すら失いかけながら、俺はトボトボと、静まり返った夜道を屯所へと歩き続けた。
あまさか、その「逃げ出したはずのあいつ」が、今まさに自分の座椅子にどっかりと腰掛け、総悟の悪戯のせいで「土方くんが俺にハートのチョコ用意してくれてんじゃん!!」と大喜びでデレデレしながら帰りを待っているとは、夢にも思わずに。
コメント
1件
ちょうど読み終えたところです。第8話、切なかったですね……。土方さんが「俺から逃げてんのかな」って思うシーン、心臓がぎゅっと掴まれるような痛みがありました。あれだけ他の女からチョコもらってるのに、結局銀さんの顔が見たくてたまらなくなる気持ち、わかる気がします。でも神楽たちの何気ない一言でまた傷ついて、独りよがりな恋だって諦めかける土方さんが不器用すぎて……。最後の銀さんデレデレ待機が救いすぎます。続きが気になりますね!