テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
3
1,245
言い終えた瞬間、世界からすべての音が消え去ったかのような、錯覚に陥った。
数秒間の、耳が痛くなるほどの沈黙。夕風の音すら聞こえない。
沈黙に耐えかねて俺が身を縮こまらせようとした、その時。
「……今さら?」
「っ~~~!!」
直哉が、目元を微かに潤ませ、泣き出しそうな
けれどこれ以上ないくらい幸せそうな顔でクスクスと笑った。
「兄さん、それ……もっと早く言ってよ、本当に」
「うっ、うるせぇ…こっちは命がけで言ってんだよ!」
恥ずかしさの限界を迎えた俺は、あいつの胸を殴ってやりたくなった。
だけど、直哉の表情は
まるで世界中の宝物をすべて手に入れた子供みたいに、めちゃくちゃに嬉しそうに輝いていた。
「だって、俺ずっと不安だったんだからね…?兄さん、隙あらばすぐ俺から逃げようとするし」
「に、逃げてねぇよ!」
「嘘。この前だって徹底的に俺のこと避けてたじゃん」
「……っ」
完璧な図星を突かれ、言葉に詰まる。
直哉はそんな俺を見てさらに愛おしそうに目を細めると、長い足で一歩
また一歩と、俺との距離をゼロにするように近づいてきた。
「な、なんだよ…?」
「今さっきの、もう一回言って」
「今さっきの?」
「好きって」
「はぁ!?お前バカか!?」
「いいじゃん、一回も二回も一緒だよ。ほら、俺のこと好きって言って」
「無理!一生言わねぇ!」
「えー」
次の瞬間
視界が遮られたかと思うと、ぎゅっ、と
強引で圧倒的な力で、俺の身体が直哉の大きな胸の中に抱きすくめられていた。
「うわっ!?ちょ、おまっ───」
いつも感じている、直哉の心地よくて高い体温。
俺の心を芯から狂わせる、大好きなあいつの匂い。
背中に回された直哉の大きな手のひらから、あいつの心臓が
俺と同じくらいバクバクと猛烈な速さで脈打っているのが伝わってくる。
「兄さん、大好き!本当に大好き!」
「……っ、分かったから!苦しいっつーの!」
「世界で一番、ううん!宇宙で一番愛してるよ。何があっても絶対に離さないから」
「ったく、お前重い…本当に、愛が重すぎるんだよ……」
「あはは、知ってる。兄さん限定だから諦めてね?」
耳元で低くクスクスと笑う声が、鼓膜を優しく揺らす。
そのあまりの心地よさに、俺はとうとう観念したように息を吐くと
直哉の制服のブレザーの背中を、おずおずと両手でぎゅっと掴み返した。
そして、直哉の胸に顔を埋めたまま、消え入りそうな声で、けれどハッキリと告げた。
「……俺も」
「ん?なに?」
「……俺だって、お前だけが…特別、だから」
直哉の身体が、ピキッと凍りついたように完全に硬直した。
「兄さん…ってさ、デレるのが急すぎて、やばいよね…可愛すぎる」
直哉の腕の力が、一気に強まる。
逃げようと身をよじった、まさにその瞬間だった。
ガチャン、と。
屋上への重い鉄扉が、大きな音を立てて勢いよく開け放たれた。
「……え?」
「うわっ、タイミング悪……」
「あれ、2人ともここでなにしてるの?」
扉の向こうから聞こえてきたのは、数人の男女の賑やかな話し声だった。
クラスメイトの男子たちと、数人の女子生徒。
文化祭の片付けか何かのサボりで、夕涼みにでも来たのだろう。
そして、彼らの視線の先にいるのは。